ronbun yomu

言語学(主に日本語文法史)の論文を読みます

小川志乃(2004.6)カラニの一用法:接続助詞カラ成立の可能性をめぐって

小川志乃(2004.6)「カラニの一用法:接続助詞カラ成立の可能性をめぐって」『語文』82

要点

  • カラ成立の「カラニのニ脱落説」についての検討
    • 従来逆接とされたムカラニを原因理由の一部と捉えることで、カラニが断絶しなかったものと考える

問題

  • カラ成立の2説
    • ラニのニ脱落説
      • ラニの用例がカラ成立時に見られず断絶する点に問題あり
      • 「逆接を表すムカラニ」しかない(原因のカラ系統がない)ことを、断絶と見るか、カラの継続と見るか
    • 格助詞カラの用法拡大説
  • 特に前者を検討

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ラニ

  • 上代から中世のカラニは、
    • 連体形+カラニ以外の承接は上代のみ
    • 中古以降、
      • 即時的な連体形カラニ(見るからに怪しい)
      • 原因理由の連体形カラニも少数ながら見られる
      • 逆接を表すとされるムカラニが鎌倉まで見られる
  • ムカラニについて見ると、
    • (粗相をしてしまったことについて)抑、その女房、あやまちせんからに、出家すべきやうやはある(宇治拾遺)
    • 前件は発話時以前に起こった事態だが、ムが使用されている(現実仮定)
    • ムカラニの後件には反語や「あやし」「不思議也」などが多く、否定的な立場を表明している
  • 以上まとめ、
    • 前件:話者の判断により仮定的に示された既出の事実
    • 後件:反語またはそれに準じる方法で後件で取り上げる事態に対して否定的な評価を加える

ムカラニとカラトイッテ

  • ムカラニは現代語のカラトイッテと構成が近い
    • 有名な俳優だからといって、裁判所が手心を加えたわけではない
    • それ以前の発言・出来事を前件に示して根拠とし、その推論を否定する形式
  • ムカラニを「推論を否定する形式」と位置づけると、ムカラニには常に否定される推論が存在することになり、「原因理由用法のカラニ」が存在したと言える
    • ムカラニ・反語表現という条件下で「推論を否定する形式」が生ずるので、ムカラニが積極的に逆接を表しているわけではない

鎌倉時代歌論書のカラ

  • 早い時代に見られるカラの例
    • この御百首に多分古風のみえ侍るから、か様に申せば、又御退屈や候はんずらめなれども、(毎月抄)
  • これらは、室町を起点と考える格助詞カラの用法拡大の極初期の例とはできない
  • 原因理由のカラニが鎌倉まで存したと考えれば矛盾は解消され、歌論書のカラはカラニのニの脱落として捉えられる

雑記