ronbun yomu

言語学(主に日本語文法史)の論文を読みます

木部暢子(2004.3)九州の可能表現の諸相:体系と歴史

木部暢子(2004.3)「九州の可能表現の諸相:体系と歴史」『国語国文薩摩路』48

要点

  • 九州方言の可能表現は、~キルと~(ラ)ルルの2種類
    • キルは能力可能、ラルルは外的条件可能
    • (2~4節、概観・調査概要・問題点)
  • 久留米市大牟田市熊本市:キルが能力可能と内的条件可能、ラルルが内的条件可能と外的条件可能
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    p.5
  • 長崎市:久留米・熊本に比べ、キルが外的条件可能にも使われ、ら抜きも用いられる
    • 外的条件可能のうち、労力を必要としない場合にはキランが用いられない。キルの完遂の意味を残すか
      f:id:ronbun_yomu:20200412003252p:plain
      p.6
  • 長崎県福江市:キルは長崎市と同様、ユルが能力可能と内的条件可能、ラルルが可能全般
    • 「ヨミキルは読むべき全体が対象」で、キルが完遂の意味を残す
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      p.7
  • 北九州市:形式は長崎市と同様、ラレルは内的条件可能にも用いられる
    • 過去における一回的実現が能力可能の範疇に入らないので、キッタはない
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      p.8
  • 宮崎県清武:ヨー・エー・ヤスーが能力可能と内的条件可能に、ラルルは内的・外的条件可能に用いられる
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    p.9
  • 天草:キルが能力可能・内的条件可能、ナルが外的条件、ラルル・可能動詞は全ての可能
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    p.10
  • 大分市:下図の通り

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    p.11

  • キル・ヨー系・ユルは能力可能で安定する一方、ラルルは外的条件のみの場合と複数の意味を持つ場合があるが、おそらく外的条件に用いられるのが先で、後者は他の形式の参入により意味が曖昧になった場合であろう

    • 福江市の場合は、 ユル(能力)/ラルル(外的条件) にキルが入ったことで、ラルルの意味が広がったと考える
      • これが進行すると、北部九州の キル(能力)/ラルル(外的条件) の体系に移行する
    • 天草は キル(能力)/ラルル(外的条件) にナル(外的条件)が参入したことで、中心的意味を失ったラルルが広く使われるようになる
    • 大分市も キル(能力)/ラルル(外的条件) に可能動詞(内的条件)が加わり、当初あった区別も曖昧になってラルル・可能動詞ともに中心的意味を失ったと考える

要点

  • 完全にオンライン大臣と化している