常盤智子(2018.4)「幕末明治期における日英対訳会話書の日本語:数量の多さを表す句との対応から」『日本語の研究』14(2)
要点
- 翻訳から生じたとされる「Nの多く」に注目し、... of N がどのような日本語と対応しているかを調査する
- We had trusted many of the friendly Indians. / 我々ガ親シキ米利堅人ノ多ヲ信ジタリキ(M21・ニューナショナル第四読本・島田奚疑訳)
- まず、会話書4種の、日本人による関連書151点を対象に、 a good deal of N、a great deal of N、the greater part of N、a great quantity of N、a great show of N、many of N、most of N、plenty of N の訳語を調べる
- 調査結果から3点、
- 副詞を利用した意訳(イクタリモ、オオイニ、ジューブン、タイガイ、タクサン、タイソウ)が比較的多い
- 副詞を用いない意訳(gomi darake, 余リ高価)もある
- of N の直訳が一定程度見られる(Nの多く、大分、大いなる部分、たくさん、余程の部分)
- 英米人による日英対訳会話書6点を対象に、 of N の訳を調べると、
- 上の調査と異なり、直訳の例は見られない
- この2種の比較から分かること、
- そもそも副詞による意訳が多く、 of N が当時の日本語では翻訳しにくいフレーズであった
- 1つ目の調査で直訳が現れたのは、漢文訓読の方法が英文の理解にも応用され、しかも独学の場合は意訳よりも内容理解が重視されたため
- また、そもそも「書きことば」が初期設定で、話しことばに言い換える必要性もなかった
- 2つ目の調査で直訳が現れなかったのは、英米人が話しことばとしての日本語を必要としていたから
- また、1つ目は典拠本を持つために翻訳という手順があったが、例えばラウダーの会話書では「日本語の実態を尊重する」という方針が取られている
- 以上に示したように、
- 日本人の会話書と英米人の会話書には相違点もあり、
- 「「直訳という作業を通して新しい日本語表現が生まれ、それが定着する」という流れの一端を、会話書が担っている」
- 英学資料としての会話書の資料価値は、話しことばが記されていることだけではない
雑記
- 3月に、4月始まれ~って言ってた自分を恨んでる