森野崇(1992.3)平安時代における終助詞「ぞ」の機能
森野崇(1992.3)「平安時代における終助詞「ぞ」の機能」『国語学』168.
要点
- 従来指摘される終助詞ゾの性質2つのうち、
- 「措定」「指示」「強示」など
- 聞き手を指向する性質(「教示」も含め)
- 後者の「聞き手指向性」は、以下の理由により認められない
- ナム・ナは会話文に集中するが、ゾはそれほどでもなく、しかも心話文の割合が多い
- ゾカシなどの連接例を除いても、やはり同一の傾向を示す
- さらに、ゾ+終助詞はあっても終助詞+ゾの例はない(cf. ゾカシ/カシナ)
- ナム・ナは会話文に集中するが、ゾはそれほどでもなく、しかも心話文の割合が多い
- ゾの機能は以下の理由により、「判断の対象として素材化されたモノ・コトについて、断定の判断を明示するもの」と考えられる
- Nゾが多いこと、~バゾ、副詞ゾがあることに加え、ゾが連体形に付くこと、係助詞と共起しないこと…「上接語や上接語を含む一まとまりの部分を、体言でない場合も体言相当として、いわば素材化された一つのモノ・コトとして扱う」
- 推量系助動詞に下接しないこと…「「ぞ」が関与する断定表現と推量表現とが相容れない」
- 文の種類別に見たゾについての特記、
- 心話文については上の分析で問題なく、
- 会話文に多いことは、やはり、「眼前の聞き手に対して、自分の意見を主張したり(略)したい」ときに、「断定」を使うことによるか(聞き手目当て性が一義的に効くわけではない)
- 情報構造的には、新情報の提示に用いられていると考えられる
- 会話文で、上位者→下位者に多いのも、ゾの断定明示の機能(を、他の表現を用いずに選択すること)による
- 地の文では、ゾ単独の例がないが、これは「物語の語り手を上位者とするようなニュアンスを生じさせてしまう」ためか
- 係助詞ゾとの異なり2点、
- 係助詞の場合は(当然)言い切らないが、言い切りにならないので、断定にもならない(例えば、推量を結びに取れる)
- 係助詞は生起位置が自由なので、焦点を明確に示し得る