金銀珠(2016.10)「中古語の名詞修飾節における主語の表示:無助詞と「の」と「が」の相互関係」『日本語の研究』12(4).
要点
- 中古語の名詞節における主語の表示(髪{ノ・ガ・∅}長き女)は、「構造の大きさ」と「指示」という2つの指標で条件付けられ、各形式は以下のように記述される
- ∅:節の内部の小さい構造の主語の表示
- ノ:節の構造が拡張されている時の主語の表示
- ガ:ノと∅の中間
- ガは前接語を強く「指示」する機能を持つのが特徴的
調査
- 節内述語の動作性(状態的・活動的)と、節内述語と被修飾語との関係(寺村の内・外)によって分類する
- A 内の関係で状態的(形容詞・無行為自動詞) B 内の関係で活動的(他動詞・行為自動詞)
- C 外の関係で状態的 D 外の関係で活動的
- ノ節は、①節内述語の性質による偏りはなく、②「外の関係」が「内の関係」より多い
- ③ ②は、Aの例(木むらのあるおかしき所)が少ないことに起因する
- 無助詞節は、①節内述語が状態的なものに偏り、②内の関係が比較的多い
- ③ ②は、A(髪∅ながき人)が多いことに起因するもので、
- ④ B(人∅来まじき隠れ家)は極めて少ない
- ガ節は、そもそも例が少なく、①節内述語が活動的な動詞に偏り、②内の関係が多い
- ③ ②は、B(わがつかふ人)が多いことに起因する
分析
- 上記のA-Dの類型はそれぞれが相補的である
- ノ節のAの少なさと、無助詞のAの多さ
- ガ節のBの多さと、無助詞のBの少なさ
- 「「が」が活動述語に著しく偏り,さらにB類に集中することで,結果的に無助詞節構造の欠落した部分にうまく入り込んでおり,その部分を補う役割を果たしている
- ノと無助詞の機能の違いは、節の構造の大きさに求められる
- 無助詞は要素が介在しても副詞類がほとんどである(髪いと長き女)のに対し、ノ節は様々な補語を取る(北の方の爰におはせし程)
- 主語であることをノで明示することで、他の要素の介在がより自由になると考える
- 上で見た節内述語・関係の差も、構造の大きさの差に収斂する
- 活動述語は取る項が形容詞・自動詞より多く(構造が大きい)
- 内の関係が補語を被修飾語に回すのに対し、外の関係は節内に補語を回さない(構造が大きい)
- ガはノ・無助詞に比して、人を主語に取って、しかも、特定の人を直接指す語に集中し(官職などは出にくい)、このことがガ節に活動述語の多いことを説明する
雑記
- 雑記に書くことすらなし