上林葵(2019.8)「関西方言における終助詞的断定辞「ジャ」の機能:マイナス感情・評価の提示」『日本語の研究』15(2)
要点
- 関西方言のジャはヤと類似するが、ジャは限定的なモーダルな働きを強く帯びる働きを持つ
- (本の所有者が誰かを単に尋ねられて)その本は俺のヤ。
- (自分の本だと主張する聞き手に対抗して)その本は俺のジャ。
- 明治期におけるジャ>ヤの交替についての言及が多く、現代関西方言のジャ・ヤの機能差については明らかでない
- ジャの統語的・形態的特徴。以下より、ジャは「終助詞的な断定辞」として位置づけられる
- 統語的には、体言相当語句に後接する点はヤと共通するが、従属節内は接続詞の構成要素にはならない(おまえのせいで遅れたん{ヤ/*ジャ}から)
- イを除く終助詞が前接することはなく、待遇性の高い人称代名詞と共起しない
- 活用がない(次は俺{ヤロ/*ジャロ})(())
- ジャは、話し手のマイナス感情や評価を提示する働きを持ち、(雨ジャ。何回ゆわすねん。)
- その対象は事態(雨であること)ではなく、話し手を取り巻く発話状況(何回も言わすこと)である
- ジャの使用されやすい環境は、以下の2点にまとめられる
- ①発話状況に関わる要素が期待・欲求・想定・規範などに代表される話し手にとっての「望ましさ」から逸脱したとき
- ②マイナス感情・評価の対象に現場性を伴って接触したとき
- 断定辞のジャからヤへの交替の過程において、ジャに「マイナス感情・評価の提示」というモーダルな性格が残された可能性がある
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- 大学教員、普段あれだけ学生に自分で調べろって言うのに