ronbun yomu

言語学(主に日本語文法史)の論文を読みます

柳田征司(1989.6)助動詞「ユ」「ラユ」と「ル」「ラル」の関係

柳田征司(1989.6)「助動詞「ユ」「ラユ」と「ル」「ラル」の関係」『奥村三雄教授退官記念国語学論叢』桜楓社

要点

  • ヤ行音・ラ行音の交渉(流黄/由王)の問題と、ユ・ラユ、ル・ラルは別問題であることを示す
    • ユ・ラユ、ル・ラルを同源とする説には問題があり、
    • 動詞活用語尾をそれぞれ類推によって利用したとする別源説(朝山信弥)が妥当かと思われるが、なお問題点がある
      • 自動詞がヤ・ラ下二段以外にもあった中で、この2種の動詞にのみ異分析が生じた理由
      • それが未然形に接続することの説明
      • ユ・ラユが早く生じたことの理由と、ル・ラルが後に生じたことの理由
  • まず、ユ・ルの語源について、
    • まず、意志動詞に偏る活用語尾はサ四・ハ下二・マ下二・ガ四であるが、
      • このうちガはそれほど語数が多くなく、四段>下二段での意志動詞化(サマタグ)もある
      • ハ・マも四段無意志・下二段意志の対応関係(アフ・シタガフ/クルシム・ソム)で、
      • サ四のみが、他の複数行との対応関係を持って意志動詞化していた(クダル、コユ)こともあり、スの分析が起こりやすかったものと見る
      • ツもウカツ・ケツなど、スと共存するが、スに引かれて「立ち消えとなった」。これはル・ユの共存に似るところがある
    • これと同様、無意志動詞はヤ下二とラ下二に偏り、これがユ・ルの類推元となったと考える
      • 以上より、ユ・ルの原義はいわゆる「自発」であると見る
  • 次に接続について、
    • ユ・ルとスが接続するのは情態言である
    • が、これはラユ・ラル・サスの形を生み出し、未然形接続へと収斂していく
    • ラユ・ラルの上代の例が寝ラエヌであることからすれば、寝+ユ・ル>ナユ・ナルとなることを避けて、語幹を保持するためにラユ・ラルとなったものであろう(r音の素材は寝の連体形・已然形のル・レからの類推)
  • ユ・ルの新古については、一般にはユが先、ルが後と見るが、同時期に成立したものと考える
    • 上代のユ・ルの例数はそれほど差がなく、
    • 「人に離ゆ」(古事記)、「立ち乱え」(万3563)は、ユ・ルの転化の可能性を示す例とされてきたが、同時期に併存するユ・ルに引かれて、ラ行動詞がヤ行に実現した例ではないか
  • どちらかというと劣勢であったルが定着したのは、ラユ・ラルが成立することで、ユの存在意義が薄まったこと、サス(s音の連続)と対応するラル(r音の連続)が選好されたことを想定する
    • ラユ・ラルの成立までは、上一段+ルが動詞終止形(ミル)と衝突を起こしてしまう

メ~モ

  • 釘貫先生のもそうだけど、「二段か四段か」が別語として存してそれが自他の区別に資したのではなくて、単一の動詞が例えば意志の場合にeで実現し、無意志の場合にaで実現すると考える方が、システム上は有り得るんじゃないか?(でもそれをどう説明したらいいのかな?)ってことを結構思う
    • 自分でも何いってんのかよく分からんけども

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