ronbun yomu

言語学(主に日本語文法史)の論文を読みます

田中重太郎(1966)逆接仮定条件を示す接続助詞「と」の用例について

田中重太郎(1966)「逆接仮定条件を示す接続助詞「と」の用例について」『明日香』31(9)

要点

  • 平安朝文法史のト・トモの項に、以下の例が引かれている
    • さはれさまでなくと、いひそめてむことはとて、(枕)
    • あいきやうなくと、ことばしなめきなどいへば、(枕)
    • うれしさは千倉におくと(輔親集)
    • 花すゝきほにいでたりと(蜻蛉)
      • これは後の辞書類にも踏襲されているが、平安朝文法史以外のトの例は少ないようである
  • 枕にはこの種の例が認められるが、「あいきやうなくと」の「く」は「ゝ」の誤で、「愛敬ななど」と読むべき(「あいきやうなゝとことばゝなめき」が正しい)
    • 「わたくしにいはせれば、このところの春曙抄本文は、「おそらく」でなく、「絶対に」誤であり、このやうな本文は、文法の資料としては、まつたく価値がなく、参考例にすらならない」*1
  • 他の枕のトの例、
    • 千の歌なりと、これよりなむ出でまうで来まし(97)は、能因本・前田本はナリトモで、ナリトは三巻本のみ
    • さはれさまてなくといひそめてん事は(91)は能因本系のみで、三巻本はトモ
    • 能因本・三巻本で共通しない点で弱みがあるが、あいきやうなくと よりは信憑性が強い

雑記

  • 日国は中古ではうつほの例だけを採っている

*1:かっこよすぎる