ronbun yomu

言語学(主に日本語文法史)の論文を読みます

仁科明(2006.3)「恒常」と「一般」:日本語条件表現における

仁科明(2006.3)「「恒常」と「一般」:日本語条件表現における」『国際関係・比較文化研究』4(2)

要点

  • 厳密に議論されてこなかった「恒常条件」「一般条件」の定義について考える
  • 先行研究における定義はそれほどはっきりしないが、「結び付けられる二つの句が表す事態のあり方に関する規定」だと考えるのが妥当である
    • 条件句の性格(e.g. 松下)なのか、それとも表現される因果関係のあり方(e.g. 阪倉)なのか?
    • 鈴木義和1987は、已バによる恒常条件・一般条件の形式的類型に、連体型(雨降れば激つ山川)、述語型(春されば花さきにほひ…)という類型があることを指摘し、それが「関係の一般性(非一回性)」による制約であると見る
  • 条件表現の体系内部においては以下の立場があるが、恒常・一般条件は、前句の性格によって規定される仮定条件・確定条件と対立する領域とすることはできないのではないか?
    • 仮定条件側に置くもの(松下)
    • 確定条件側に置くもの(木下)
    • その中間に置くもの(阪倉→山口・小林)
  • 「恒常」と「一般」とを分けて考えるべきであり、本稿では以下の用語法を提案する
    • (経験的)恒常条件:話手の経験内における二事象の結びつきの恒常性
    • 一般条件:個別の事態の結びつきを離れた二事象の結びつきの一般性、法則性
  • 上の定義のもとで、これら「広義恒常条件」の条件表現体系での位置づけを考える
    • 経験的恒常条件は、確定条件の下位分類に、一般条件は仮定条件の下位分類になる
      • 経験的恒常条件は、前句が現実性をもったものに限られ、
      • 一般条件は、前句が既然の事実には一切触れないという点で仮定的である*1
  • 条件表現史のこれまでの理解、
    • 順接の領域で、「「已然形+ば」が「広義恒常条件」を表していたことから、そこで表される関係の「一般性」が、未経験の領域に投射されることによって、「未然仮定」が表されるようになったという理解」(阪倉・川端)が通説であり、
    • 逆接では、異なる形式が担った未然仮定(トモ)・広義恒常(ド・ドモ)を、現代語では同一のテモが担うようになっている(衣畑2004)
    • この2つの変化は、確定条件形式と結びついてきた広義恒常条件が、近現代語では仮定条件の形式と結びつくようになったという点で共通する

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  • 本稿での理解、
    • 古代語の広義恒常条件は、経験的恒常条件を中心としており、一般条件はその派生として捉えられていた
      • 順逆ともに広義恒常条件が確定条件形式によって表されるのはこのことによる(経験的恒常条件は確定条件の一部)
    • 近現代語の広義恒常条件は、経験的恒常性よりも、一般性・法則性の方にずれ込んでいる
      • 順接で已然形バが未然仮定を兼ね、逆接でも未然仮定がテモで表されるのはこの把握のあり方を反映する
    • 古代語から近現代語への変化は、「「広義恒常条件」に関する把握が、いわば「恒常(一般)条件」から「一般(恒常)条件」へ」と変化したことによるものと考える

雑記

  • 桃鉄みたいな感じで給料がサイコロで決まってほしい

*1:こういうときの「仮定」の外縁ってなんだろね