ronbun yomu

言語学(主に日本語文法史)の論文を読みます

蜂谷清人(1977)狂言古本における仮定条件表現:「ならば」「たらば」とその周辺

蜂谷清人(1977)「狂言古本における仮定条件表現:「ならば」「たらば」とその周辺」『成蹊国文』10、『狂言台本の国語学的研究』笠間書院所収

要点

  • 仮定条件表現の変化のうち、特に次の3つの事柄について、狂言台本を主資料として述べる
    • 連体形ナラバ・未然形ウバ、ウナラバ
    • タラバからタナラバ
    • ナラ・タラの成立

連体形ナラバ・未然形ウバ、ウナラバ

  • 虎明本におけるナラバとして、体言ナラバ、連体形ナラバ、命令形ナラバのような名詞句的性格を持つ語の上接するナラバが見られる
  • ウバ・ウナラバは直接的にはウニハから転じたもの
    • 其上で御ほつたいなされうバもかくもでござる程に
    • 例数はあまり多くないが、仮定条件に「未来を示す助動詞「う」を付け加えるのはある意味で余分なこと」
    • ウバの場合、仮定条件表現の未バの衰退の傾向の中で、仮定的意味を明確に示すウを伴うことによって容認された
    • ウナラバの場合、ナラバの伸長に伴ってナラ+バよりもナラバ一語としての意識が強くなり、未来の意味を表すウを伴うウナラバも許容された
    • 結局冗長なので、ウナラバは連体ナラバに、マイナラバはヌナラバに吸収される
    • ウバに関してもやはり、和泉流古本でウバとある箇所が江戸時代末のテキスト(古典文庫本)では見られない

タラバとタナラバ

  • ウバ・ウナラバは一般的な変遷の流れを反映するが、それと同様、タラバ・タナラバも同様の傾向を示す
  • 虎明本には連用形タラバはあるが、タナラバはなく、虎寛本にはタナラバが圧倒的に多い
  • ただし、タナラバは室町キリシタン資料にも見られる
    • タナラバがそれほど一般化していなかった
    • キリシタン資料に見られるのは、ナラバを基本とする他表現の意識的使用もあるか

ナラ・タラ

  • 虎明本・天理本に稀に見え、虎明本にはナラしかない
  • 虎明本のナラは歌謡と強い口調のも
  • 天理本のナラは同じ言葉の繰り返し、それなら、囃子などに偏る
    • しかも、後半に偏る
  • タラの成立にタレバ→タリャ→タラ説があるが、従い難い側面あり、ナラバ・タラバに一語化に際してバが省略されたと見る方がよいか