辻本桜介(2022.4)中古語の状態性述語を持つ引用構文について
辻本桜介(2022.4)「中古語の状態性述語を持つ引用構文について」『文学・語学』234.
要点
- 状態性述語をとる引用構文の文法論的位置付けを検討する
- 杉の御社は、しるしやあらむとをかし。(枕227)
- 吉田(2017)は体験話法であることに重点を置いたもので、文法的性質については課題が残る
- 藤田(2000)の第Ⅰ類、第Ⅱ類ともに、形容詞述語を取るものは現代語では現れにくい
- 中古和文の例を分類すると以下の通り
- A 思考内容ト+心的な状態
- A1 引用句を必須成分としない情意形容詞を述語とするもの
- 「何わざするならむ」と、ゆかしくて、…(堤中)
- 情意主体に生じた情意を表すが、語り手がそれを描写するのではなく、「情意主体自身の台詞のように示される」という特徴を持つ(いわゆる体験話法)
- 「~と形容詞(連用形)思ふ」がケリを伴う例が一定数あるのに対し、A1にはその例がほぼないことも、このことを裏付ける
- A2 オボシを述語とするもの
- A1 引用句を必須成分としない情意形容詞を述語とするもの
- B 発言内容・書記内容ト+発言・書記行為の特徴
- いずれも、語り手以外を主体とする事柄が描写される点でA1とは異なる
- B1 言葉の物理的な有り様を名詞述語で描写するもの:はしがきに、「…」と、白き色紙にて立文なり。(源氏・浮舟)
- B2 発言内容・書記内容の量を述語で示すもの:「…」とばかり言ずくななり。(寝覚)
- B3 語り手の感じ方を述語で示すもの:「…」と、いといとほしき御気色なり。(源氏・帚木)
- 用例解釈、
- 上の例はいずれも藤田の第Ⅰ類の構造として理解でき、
- A1が一定数現れるのは現代語とは明確に異なる点である
- 現代語の第Ⅰ類が引用句の表す発話・思考という「動き」に対して後続する述語も「動き」を表すのに対し、中古語の場合は情意形容詞のような「状態」との一致関係を結ぶことも可能であった
- B1-3は「…と言ふ」等の第Ⅰ類からの転用と思われる
雑記
- 毎夏聞いてるやつです