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言語学(主に日本語文法史)の論文を読みます

岩田美穂(2021.1)述語句並列におけるミ並列の位置づけ

岩田美穂(2021.1)「述語句並列におけるミ並列の位置づけ」『就実表現文化』15.

要点

  • 完了形式系の並列形式は、鎌倉頃にヌ・ツ・タリ(まとめてタリ型)があり、最終的にタリ一形式となる。これ以前に見られるミによる並列が、並列表現史にどのように位置づけられるかを考える。
  • 上代のミは中止法を基本機能として、その延長としてV1ミV2ミという異なる動作の反復を表し、その中で(連用形・テ形が反復の有標形式にはなりにくいことも影響して、)反復専用の形式となったと考えられる。
  • 中古にはV1ミV2ズミが見られる(大秦2005)など、並列形式化したと見てよく、中古末頃から衰退したものと見られる。
    • 衰退の要因には、語の固定化(泣きみ笑ひみ)*1、(形容詞派生の)マ行四段動詞(竹内2008)との衝突が想定される。
      • 悲しみ泣きみ、かつは貴み拝みけり。(宇治拾遺)
  • このミの衰退についてさらに、他の並列形式との関係から考えると、
    • ミ・ヌは語彙的な重複が少なく、直接的な置換関係にはない。ただし、ヌがいち早く反復並列を担うようになったのは、ミ並列が先行して存在したことによるものと考えられる。
    • 反復並列は構文的には安定しているが、使用形式の入れ替わりが激しい(ミ→ヌ→ツ→タリ)。これは、反復並列が連用修飾句として用いられやすく固定化を招きやすいことにより、一方のタリが長く使われるのは、タリがもっぱら例示並列を中心とすることによる。

雑記

*1:これは衰退の要因ではなく結果ないしは過程では?