鳴海伸一(2017.11)程度副詞「けっこう」の成立と展開
鳴海伸一(2017.11)程度副詞「けっこう」の成立と展開」『和漢語文研究(京都府立大学)』15
要旨
- 「けっこう」の主に、程度副詞用法の成立について述べるもの
- けっこうな物を着たがるは婬欲の心なり(六物図抄・形容動詞)
- それでもけっかう勤りますのさ(評価副詞的・浮世風呂)
- この本はけっこう面白い(程度副詞)
副詞用法の発生について
- 副詞用法(評価)の発生は近世後期
- この段階では「述部の事態が十分満足に成立する」ことを表すもので程度性はなく(十分勤まるの意)、評価的
- 形容動詞「けっこう(な)」の、特に問題はないという主観的判断と関連
- 近代に入って程度用法の萌芽あり
- 結構儲かる商売だよ/結構人が来た(動詞述語)
- 結構温かい/結構おもしろかった(形容詞述語)
- ただし、この段階の「けっこう」は、あくまでも「どれくらい面白かったか」を問題とするのではなく、「十分に面白い」ものとして成立していることを表し、「事態の成立」の延長上にある
程度副詞化
- これが述部に量程度性をとるために、特定事態の成立から離れ、頻度や高さを表す方向へとシフトする
- けっこう賠償交渉をやってきておる
- さらに、意外性があるという特徴から、「えてして~」という、傾向・性質を述べるような含意を持つ
- 米と野菜さえあれば結構生きていけるものだ
- 形容詞を修飾して抽象的な意味での程度の高さを表すようにもなる、これは「事態の成立」からは完全に離れている
間投詞的用法について
- 渡辺(1990)*1:「程度副詞ばなれの方向へ動いて誘導副詞化している」 ex. 結構彼がやったのかもしれない
- 周辺事例であって、間投詞用法がここから定着したとは考えにくい。傾向・性質を述べるものと連続するものか
気になること
- 「結構面白い」のような例が「程度なのか程度でないのか」が明確でなく、判断の基準もよく分からない。文脈判断だとどちらの読みもできてしまうので何か他の基準があるといいと思うが…