土井光祐(2018.2)「明恵関係聞書類の一般性と特殊性:言語変種とその制約条件をめぐって」『駒澤国文』55
問題意識
- 明恵資料群全体を等質の言語データとして扱うことは非常に困難
- 鎌倉時代口語研究に必要な6つの視点(土井2007)
- 資料的性格:資料の本来的目的、成立事情、位相等との関係の検証。
- 「口語」の概念:「口語」とその類語の概念規定とその根拠の検証。
- 言語意識と機能:文献資料における「口語的徴証」の使用又は混入の際に想定される言語意識と機能の検証。
- 文体・表記体:文体・表記体を形成する因子として、「口語的徴証」の痕跡を幅広く把握し、当該資料の文体・表記体的特徴を検証して、類型化、体系化を目指す。
- 口語の体系:想定される鎌倉時代「口語」の体系化を目指す。
- 言語生活(史)の体系:書記言語を含む鎌倉時代の言語体系全体における「口語的徴証」の占める位置を考察すると共に、口語史・文語史双方を含む言語生活史としての体系化を目指す。
- 「聞書類を資料性の観点から概観した上で、明恵関係聞書類の多様性と言語変種とその制約条件との関係について整理することを直接の目的とする」(p60)
「聞書」の問題
- 話者の音声言語→「聞書行為」→「聞書資料」の関係性
- 「聞書」と言っても元の注釈書等と同じ言語基盤を持つため、その影響を受ける
- 聞書資料の成立過程として(p.63)
- ①話者の言語意識と音声言語の実際(場や場面の目的性等=口頭言語の性格)。
- ②聞書者の言語意識と「聞書行為」「聞書資料」の実際(「聞書行為」目的、「聞書行為」の環境等)。
- ③編者の言語意識(編集目的、編集態度、加筆・削除・要約等の実際)。
- ④享受者、伝承者の言語意識(享受者の目的に基づく新情報の付加又は削除、本文に対する改修の有無や態度等)。
- 表現主体の二重性(話者のものか、聞書者のものか)という問題
- この意での「聞書」は却癈忘記の「禪堂院世出世御物語聞書」が古い例
明恵上人と聞書資料
明恵資料の言語変種
- A:華厳信種義聞集記、解脱門義聴集記、五教章類集記、起信論本疏聴集記・同別記聴集記、却癈忘記は、明恵の発言聞書を満行に、私注などの非聞書部分は字下げで峻別。両者の間には差あり、全体として漢文訓読特有語を基調とするが、平安時代和文特有語と院政鎌倉期に初見の語は非聞書部分には見出されない
- B・C:口語的要素は講説聞書類の方が高く、伝授類には少ない
- D:明恵説の聞書の口語含有度は安定して高いが、弟子の喜海説の聞書は初期が低く、後になるにつれて上がる
- F:「生の聞書」であるものはない
- G:華厳信種義聞集記では、智照(東大寺の凝然の弟子)による文語規範の回帰が行われている
- 捨て仮名を振り仮名に訂正、トコ→トコロ、ベシの接続混乱例の修正、デ→ニ、終止連体形を正用の連体形にする例