松野美海(2014.11)「感情動詞オソルのヲ/ニ格選択について:中世和漢混交文を中心に」『名古屋大学国語国文学』107
要点
- 「恐れる」の格体制について、中世和漢混淆文を対象として、ヲ・ニの機能的対立を明らかにする
- 太郎は事業の失敗を恐れて、何もできなかった。
- 太郎は花子の剣幕に恐れて、何もできなかった。
先行論
歴史記述
- 中世和漢混淆文におけるオソル
- すなはち、人をおそるゝがゆゑなり。(方丈記)
- さらに人におそるゝ事なし(古今著聞集)
- ヲ・ニ・トを取らないほうがむしろ普通
- 節を取る場合、
- ヲ格項名詞が節を取る場合、できごとを取りやすい
- 羊ノ音ヲ人ノ聞カム事ヲ懼レテ(今昔)
- ニの場合はそもそも例数が少なく、できごとも取りにくい(モノを取る)
- これは、「確定的かどうか」という点で対立する
- ヲ格項名詞が節を取る場合、できごとを取りやすい
- 名詞の場合、
- 未実現の事態ヲオソル場合:後世、後世ノ事、悪道、悪業、悪趣、悪、過、罪障、業報、…
- 未実現ではないが、個別的事象から離れた事象ヲオソル場合:鬼神ナント、仏神、彼ノ女、勅命、…
- 眼前の事態ニオソル場合:此ノ音、風、龍顔、海賊、我、我等、主、中宮、梶原、…
-これもやはり、確定性の高さによって二分できる
- 共通する名詞は、威・威勢、気色、罪、人、世など、これもどちらかといえばニで確定性が高く、ヲで確定性が低い傾向を示す
- 近世以降、
- 特に明治以降にヲ格偏重になり、既実現事態にも進出する
気になること
- 現代のヲ・ニの対立を歴史的観点から明らかにする、というのが目的だったが、現代では既にヲに統一されていると見て「なぜヲ偏重になったか」も考えたい
- 既実現事態への進出は何らかの変化の一側面であって変化要因ではないので、意味変化の側から攻めるほうが良さそう
- もしくは感情動詞・形容詞の体系性から見て、「オソロシ:オソル」のような形容詞・動詞の対応関係を持たない「怖づ」の衰退と、「コハシ:コハガル」の対応関係を持つ「怖がる」の伸長(室町以降)を通して、ヲ格しか取り得ない「怖がる」の方に意味が寄ってって同様の対格性を獲得した、とか*3