ronbun yomu

言語学(主に日本語文法史)の論文を読みます

呉寧真(2017.2)動詞連用形に後接する「おはす・おはします」

呉寧真(2017.2)「動詞連用形に後接する「おはす・おはします」」『国語研究』80

この論文関連で hjl.hatenablog.com

要点

  • 「~おはす・おはします」が、「~来」「~行」の敬語形としての複合動詞後項なのか、主体に敬意を添える補助動詞なのか、という問題について

「おはす・おはします」

  • さりともなど慰めたまふを、(匂宮ガ)近きほどにののしりおはして、つれなく過ぎたまふなむ、(総角)
    • 「ののしり来」の敬語形
  • 秋の夕のただならぬに、宰相中将も寄りおはして、例ならず乱れてものなどのたまふを、人々めづらしがりて(真木柱)
  • この問題の解決のため、他の語の接続可能性によって分類してみると、
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    p.40
  • 梗概、
    • Ⅰ 「来」「行く」にのみ前接するもの:移動の意味があり、「来」「行く」の敬語形
    • Ⅱ 「ゐる」にのみ前接するもの:移動の意味がなく、「~ゐる」の敬語形
    • Ⅲ 「来」「行く」にも「ゐる」にも前接するもの:「来」「行く」の敬語形で、「~ゐる」の敬語形は「~ゐたまふ」で表す
    • Ⅳ 通常語形が見られないもの:文脈判断
  • Ⅲに関して、
    • 「入り来」と「入りゐる」の違いは、動作主が移動しているかしていないか。「入りおはす」の例は全て移動が認められるので、「来」「行く」の敬語形。
    • 「出づ」「登る」「寄る」も同様に分析できる
    • 「立つ」には問題がある(→Ⅳ)
      • 大路に立ちおはしまして[=立っている](夕顔)
      • 彼ただここもとに立ちくる[=波が打ち寄せてくる]心地して(須磨)
      • 心ひとつに立ちゐ[=立ったり座ったりする]、輝くばかりしつらひて(明石)
  • Ⅳに関して、
    • 「ののしる」「語らふ」「よきる」「並ぶ」は複合動詞で、Ⅰ~Ⅲに準ずる分析ができるが
    • 補助動詞と認められるものがある
      • おとなびおはします:おとなびていらっしゃる
      • 御心動きおはします:
    • これらの通常語形は、ありの敬語形、助動詞「り」の敬語形、ゐたりの敬語形の可能性が考えられるが、精神活動・言語行動に属することから「ゐたり」の敬語形か
    • ただし、立ちおはしますだけはこれに該当しないので「立てり」からか