ronbun yomu

言語学(主に日本語文法史)の論文を読みます

鈴木浩(1993.6)ナリによる並立表現における選択用法成立の経緯

鈴木浩(1993.6)「ナリによる並立表現における選択用法成立の経緯」『国語学』173

要点

  • 並立助詞ナリの成立と、用法派生に関して

聯立のナリの成立

  • 此島説「AなりともBなりとも」→「AなりBなり」は受け入れがたく、不十分終止からの発達を想定する
  • 近松の例を見ると、
    • 行すゑよからふ様もなしくだしたいも一はいなり。わかるゝはなをつらし のような不十分終止
    • 身は貧かたわおとゝ弟子に土佐を名のらせ のように共有する主語を一括する例から、
    • 乳兄弟也主従也私むかひとあるならば。 のように述語だけになる例へ、この段階で「聯立ナリ」成立と見る
    • これがさらに、 しゅくんなり我子なり思ひのいろを腹立の。 のように、主語の係り先を持たない例(列挙型)がある
  • 近世後期、
    • 列挙型が広範に見られるようになり、さらに、
    • ちっとなりやっとなり工面の出来るは色の道 のようにちっと or やっと という選択ナリが成立する

選択のナリの派生

  • 単にナリトのト落ちとはみなせない(仮定内容の例示のために最も重要な要素)
  • しかし、「どうなりこうなり」と「どうなりとこうなりと」の語義の近さには着目したい
  • 意味の近さと、聯立ナリの~ナリ~ナリからトの脱落が可能になったと考える

文献リスト

メモ程度に

  • Tomohide Kinuhata, Miho Iwata, Tadashi Eguchi, Satoshi Kinsui 2009 Genesis of 'Exemplification' in Japanese
  • 岩田美穂(2006) 並列形式「ナリ」の変遷
  • 岩田美穂(2007) 例示を表す並立形式の歴史的変化 タリ・ナリをめぐって
  • 岩田美穂(2007) 「ノ・ダノ」並列の変遷:例示並列形式としての位置づけについて
  • 岩田美穂(2011) 引用句派生の例示
  • 岩田美穂(2012) 例示を表す並列形式の成立過程
  • 岩田美穂(2014) 例示並列形式としてのトカの史的変遷
  • 岩田美穂・衣畑智秀(2011) ヤラにおける例示用法の成立
  • 柏原司郎(1979) 接続助詞「し」の成立をめぐって
  • 柏原司郎(1980) 接続助詞「し」の成立についての補遺考
  • 京健治(1998) 並立列挙表現形式の推移
  • 京健治(2006) 並列表現形式の発達とその契機
  • 京健治(2006) 並列表現史の一側面:「Vナカッタリ(スル)」形式の推移
  • 京健治(2013) 動作作用の並列表現形式の推移 「たり」形式への収斂
  • 京健治(2014) 並列助詞「なり」成立の経緯再考
  • 京健治(2015) 接続助詞「し」の意味用法とその来由
  • 京健治(2016) 並列表現「~ツ~ツ」の消長に関する考察:動作作用の並列表現の推移補遺
  • 京健治(2017) 古代語に於ける〈終止形による条件表現〉に関する考察:院政鎌倉期を中心に
  • 京健治(2018) 並列表現「~も…ば、~も…」の成立小考
  • 鈴木浩(1990) 接続助詞「し」の成立
  • 矢毛達之(1997) 仮定条件句末形式出自の助詞について:デモ・ナリトモの意味機能変化
  • 山田潔(2015) 『玉塵抄』の並列表現:「ツ」「タリ」の用法