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言語学(主に日本語文法史)の論文を読みます

高山善行(2021.3)中古語助動詞の分類について:「連体ナリ」との承接の再検討

山善行(2021.3)「中古語助動詞の分類について:「連体ナリ」との承接の再検討」『国語国文学福井大学)』60.

要点

  • 北原の連体ナリの分類についての疑問点
    • ① 準体句内にモダリティが生起できるのにも関わらず、連体ナリに客体的表現だけが上接すること
    • ② Nナリにはキ・ツなどが下接できるのに対し、連体ナリには主体的表現だけが下接すること
    • ③ 主体的であるはずの終助詞が下接しないこと
    • ④ 相互承接最下位のジ・マシが下接しないこと
    • ⑤ ナリ+ラムが和歌でしか用いられないこと、ナリ+ケムが源氏にしか見られないこと
  • 高山(2019→2021)では、ナリが「モーダルのスコープ」を拡張する機能を持つことを主張したが、

p.52

hjl.hatenablog.com

  • この「モーダルのスコープの拡張」*1によって、上の5点の疑問は説明される
    • ① モーダルのスコープに入れるものが客体的表現に限られるため
    • ② 「「連体ナリ」がモーダルのスコープを拡張する形式であるなら、当然ながらモダリティ表現(主体的表現)だけが下接することになる」
    • ③ 終助詞は「聞き手目当て」であり、モーダルのスコープとは関係しない
    • ④ 連体ナリは条件節と共起することがなく、条件節と呼応するマシとは呼応しない。ジは、連体ナリにズが下接しないことから説明される
    • ⑤ ラム・ケムは「自前で広いスコープを有している」ので、連体ナリを付加する必要がない

雑記

  • 卒論題目が「中古語の潜伏疑問文について」「中世語の理由節について」で気になる

*1:「「連体ナリ」は、モダリティ形式と節連鎖を繋ぐ役割をしている」とあるが、連体ナリの機能がそれ「だけである」ことを主張する/保証するものなのか?以下の説明はすべて、それ以外の機能がないことを示して初めて言えるものであって、数学A感あるな…。