ronbun yomu

言語学(主に日本語文法史)の論文を読みます

小柳智一(2012.12)被覆形・情態言・形状言・情態性語基

小柳智一(2012.12)「被覆形・情態言・形状言・情態性語基」高山善行・青木博史・福田嘉一郎編『日本語文法史研究 1』ひつじ書房

小柳(2011)とセット

hjl.hatenablog.com

要点

  • いわゆる被覆形周辺の概念整理と、未然形の成立

有坂の「被覆形」

  • 単独語形を「露出形」、派生語・複合語内部で使われる形を「被覆形」
  • 母音交替の類型として、
    • e2 - a:ake2 - akasu
    • i2 - u:sugi2 - sugusu
    • i2 - o1:nagi2 - nago1ja
    • i2 - o2:oki2 - oko2su
  • 露出形は語の資格あり、被覆形は語以下の形態素

阪倉の「情態言」

  • 子音拍の形式としての「語基」と語基が伴う母音の「接尾形」
    • 語基 + u:inu
    • 語基 + a:kuma
    • 語基 + i :kuri
  • 阪倉は名詞と動詞を関連付ける
    • i接尾形に関して、
      • 転成名詞(居体言):散り、まがひ、なげきす、つり、つつみ、ちり(埃)、かへり
      • 関連する動詞がないものとして、さち-さつ矢、くに-くぬ
        • これもi-uの母音交替があり、平行的
    • u接尾形に関しても、
      • むかつ蜂、まが事、ゆらに、くま、つら、はら、むら
      • 情態的に修飾する「むかつ蜂、まが事」が本来の用法なので、
  • そのため、a接尾形も被覆形として現れたり、形容詞・形容動詞語幹を構成したりする
    • これを体言の一種とみなして「情態言」と名付ける
  • 情態言は動詞と、意義的な濃淡の中でかかわる他、未然形との関連も指摘

川端の「形状言」

  • 語の成立以前に想定されるものを「形状言」とする
    • くも → くもる ではなく、くも→{くも/くもる}
  • 形状言は母音交替を起こしやすい
    • o2o2-aa:ko2to2-kataru
    • 名詞の「活用」と捉えると、 saka-sake2 の saka はもはや形状言ではなく、名詞の被覆形、すなわち一活用形
    • 活用とは異なる、成立の次元でも捉えられる
      • 成立:さか(形状言)+ 接尾辞 i > sake2
      • 活用:さか(名詞被覆形) - さけ2(名詞露出形)
    • 形状言からの成立として、諸品詞の組織を考える
  • 未然形に関しては、動詞連用形から分立的に成立したものと説く

山口の「情態言」「情態性語基」

  • 機能的には被覆的、意味から見れば情態的は形態素を「情態言」とし、情態言を構成する語基を「情態性語基」とする
    • 末尾をa に限定しない点で阪倉と異なる
  • パターンとして、
    • 情態言が1つの語基からなる場合:暗 kura 静 sidu
    • 語基に情態化の接尾辞がついて情態言になった場合:静 siduka 清 kijo2ra 浅 asaraka
    • 語基が重複する場合:密 simimi 直 naponapo
    • 動詞に情態化接尾辞がついて情態言になったもの(情態性語基ではない):愛 medura 明 aki2raka
  • 単語形成の段階を 情態性語基→情態言→単語 と考える
    • 一方、名詞の形成に特化したものに、実体性語基がある
    • 情態性語基、実体性語基が分化していたか、いないかについて、曖昧な点あり
  • 未然形に関しては、情態言・被覆形と同一視

ここまでのまとめ

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  • 共通点として、
    • 語構成的な性格は、語以下の語基的なものと考えている。
    • 形態は、末尾母音に奥舌のものが現れるのを典型と見ている。
  • 理論的な相違点として、
    • 有坂の被毅形は、動詞未然形と関連しない。
    • 阪倉の情態言は、末尾母音がaに限定される。
    • 川端の形状言は、原理的に想定される品詞以前である。
    • 山口の情態言は、より小さな梢態性語基から形成される。

小柳(2012)の立場

  • 母音終止、奥舌母音を典型とする「情態語基」
    • sakaduki 月 tukujo 木 ko2dati
    • masaru 過 sugusu 起 oko2su 失 usinapu
    • これら語基の特性は、しいていえば(事物や動作ではなく)情態を表すので、「情態語基」とする
  • 情態語基に品詞性・文法的機能を認めることはできない
    • 岳 take2*1(高いという属性を有する地形)< 情態語基 高 taka
    • この taka は 形容詞たかし 動詞たかる 複合名詞たか殿 複合動詞たか照らす にも見られるが、これに品詞性を考えるのは無理がある
  • 川端の形状言にきわめて近いが、語構成上の実質的な要素とする点で相違する
  • 語構成のパターンとして、
    • 情態語基+接尾辞:taka+si taka+ru
      • 山口の sidu(情態性語基) + ka > siduka(情態言)については、「情態語基に接尾辞のついた形が一つの情態語基に相当する場合がある」と考える
    • 情態語基+語基:saka + duki tuku + jo ko2 + dati
    • 情態語基+φ:inu kamo ipa
  • 未然形に関して、
    • 情態的意味と未然形の様相的な意味を直接つなげるのは得策ではない
    • 結局、情態語基が未然の意味を表すのはなぜという問いになってしまう
    • 情態語基の被覆性(単独使用ができない)を引き継ぎつつ、意味的には飛躍する未然形をどう考えるか?

*1:テイクツー…