江口匠(2016.3)「〈逆接〉を表す「て」をめぐって」『人文』14
要点
- 逆接の「て」が現れる構文条件について
- 自分でいって、わすれるやつがあるか。
- あんな事故にあって助かったのですか。本当に運がいい人だ。
これまでの指摘と枠組み
前提的に予測される事態と逆の結果が生起。
条件表現の下位に属す接続法であり、前件事態が成立条件として機能していない。
節同士の関係が非順当関係か対立関係かであり、捉え方によって異なる。
起因性を裏から見た用法であり、テをノニで言い換えることが可能。
従属節と主節の主体が同じであり、主節が否定形または否定的な評価を意味する表現であることが多い。
状態性の述語が多く、テモで表されるのが自然。
- 因果関係を持つ「逆条件」と、因果関係のない「逆接」(~ガに近い)を区別しつつ、これらを併せて〈逆接〉とする
- この椅子に座って体が痛くならないなんて、随分タフだね。
- この椅子に座れば体が痛くなる→実際はならない
- ①シテ節表現事態が成立条件となって生起する事態と逆の結果が主節事態に表現された用法
- あなたがたはここでも木を見て森を見ない、大きな錯覚を起こしている。
- 木を見れば森も見ているはず→木を見て(いるのに)森を見ない(森は木を包含)
- ②シテ節事態と同様の動き・状態・属性が主節において表現されなかった用法
構文条件
- 以下の3種の型が指摘できる
- 偽装:XしてXしない[ふり/顔]をする
- お庄は聞いて聞かないような振りをして、やっぱり笑っていた。
- シテ節と主節動作主が一致、否定表現が必ず共起
- 「事態を知覚したらその知覚行為を偽装することはない」という予測を裏切るところから〈逆接〉らしさが出る
- お庄は聞いて聞かないような振りをして、やっぱり笑っていた。
- 敢行:XしていてYする
- 本当のことを知っていて教えてくれなかったらしい。/わかっていてストライキをやるなんて、…
- シテ節述部が主節述部を修飾する
- 本当のことを知っていて教えてくれなかったらしい。/わかっていてストライキをやるなんて、…
- 意外性:「XしてYしない」「XしてYするのか」「XしてYする[とは/なんて/のは/というのも]Zである」
- あれだけ叱られて、まだ部屋を片付けない
- それほどの力を持っていて、なぜこのような手段をとったのか
- ここまで面倒を見てもらって、そのような態度をとるとはいい度胸だ
- 話者が主節動作主に対して意外・不満の感情を抱くもの