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言語学(主に日本語文法史)の論文を読みます

栗田岳(2014.12)連体修飾のム:「思はむ子」をめぐって

栗田岳(2014.12)「連体修飾のム:「思はむ子」をめぐって」『Language, Information, Text = 言語・情報・テクスト : 東京大学大学院総合文化研究科言語情報科学専攻紀要』21

要点

  • ムの連体用法を「被修飾名詞の非限定性」と規定する

ムの連体用法

  • 先行論の問題。婉曲・仮定は説明として不十分
  • また、高山(2005)の「非現実性標示」に関しては、
    • そこにあらむ子はいかがなりたる(蜻蛉)のように、「人」に限定しなければ「特定の時空間でない」もの以外も見られる
    • 今日この山作る人には日三日給ぶべし。またまゐらざらむ者は、また同じ数とどめむ(枕)のように、対になるのに「ム」の有無が異なる例の説明ができない

hjl.hatenablog.com

  • 本稿ではムの連体用法を「被修飾名詞の非限定性」と既定する
    • 「これにただいまおぼえむ古き言一つずつ書け」…「とくとくただ思ひまはさで、難波津も何も、ふとおぼえむことを」(枕)
    • 言語化する時点ではどの古歌かは知りえない
    • 「連体修飾のムに後続する名詞は、そこで修飾されている内容以上には、言語主体からの限定を受けない」と考える

被修飾名詞の非限定性

  • カテゴリを4つ設けて、その間に連続性を認める
  • 1甲:言語主体自身にとって肯定的な評価に値する事物の提示
    • いかで思ふやうならむ人に盗ませたてまつらむ(落窪)
    • 言語主体はその男を誰かに限定するものではない
  • 1乙:言語主体自身にとって肯定的な評価に値する事物の提示かつ、非当事者的
    • およぶまじからむ際をだに、めでたしと思はむを、(枕)
    • 事物に直接的な関わりを持たない(非当事者的)点で1甲と異なる
  • 2:肯定的評価でなく、非当事者であること(自分には関係ないが、という態度)が前面に出るもの
    • 「…かくて人も仰せざらむ時、帰り出でゐたまへらむも、をこにぞあらむ。…」など、ものほこりかに言ひののしるほどに、(蜻蛉)
  • 3:否定的情意で、自身からの切断を図るもの
    • 父母の思さむこと、恥づかしくもあるかな(落窪)
  • 思はむ子を法師になしたらこそ、心苦しけれ(枕)は、2に該当