ronbun yomu

言語学(主に日本語文法史)の論文を読みます

張又華(2013.3)「テシマウ」構文における話者の感情・評価的意味について

張又華(2013.3)「「テシマウ」構文における話者の感情・評価的意味について」児玉一宏・小山哲春編『言語の創発と身体性』ひつじ書房

要点

  • テシマウのアスペクト的意味と話者の感情・評価的意味を、連続性のある構文として捉える
  • この意味は、話者の意志性から影響を受ける

テシマウの意志性と意味

  • テシマウには意志的な実現と無意志的な実現があり、意志的な実現はアスペクト的意味に、無意志的実現は感情・評価へと偏る傾向が見られる
    • おかずが残っていたので、食べてしまった。(動きの完遂)
    • ここまで来たんだから、ついでに行ってしまおう。(最終局面の実現)
    • あんまりおいしいので、ラーメンを3杯も食べてしまった。(無意識の実現)
    • こんな成績で日本代表に選ばれてしまうのは、心苦しい。(予想外の実現)
    • 急がなければ、バスが来てしまう。(望まない事態の実現)
  • ここで、テシマウの意味が意志性によって決定されることを提案し、その「意志性」とテシマウの関わりを見ていく
  • 語彙レベルの意志について
    • 意志動詞・無意志動詞という語彙レベルでは、
      • 鈴木重幸の、さそいかけ・命令が可能(意志動詞)と、不可能(無意志)の異なり
      • 意志的動作・無意志的動作の両方を表せるものを意志動詞として考えるもの
    • 他動性のレベルでは、自動詞のうち、主体変化動詞・主体動作動詞が問題となる
    • 動詞の意志性・アスペクトのレベルでは、動きの意志性がテイルのアスペクト的解釈に影響を与える(*洗濯物は枝にぶら下がっている最中だ)
    • テオクが意志動詞化の機能を持つ一方で、テシマウは無意志化する機能を持つ
      • わざと負けておいた
      • つい声をかけてしまった
    • ここには動作の意志性だけでなく、話し手の意志も関わるので、その点を考慮する必要がある
      • あんまりおいしいので、ラーメンを3杯も食べてしまった。(無意志)
      • 賞金を得るために、ラーメンを3杯も食べてしまった。(意志)
  • 表現レベルの意志について
    • 使役文は意志性が高く、受身文・使役受身文は意志性が低い
      • 使役:怒らせてしまった
      • 受身:叱られてしまった
      • 使役受身:納得させられてしまった
      • 自発:感じられてしまう
    • (広義)モダリティ形式では、意志的行為を表すモダリティ形式が達成される場合、正の感情と結びつく
      • 意志:済ませてしまおう/思い切って買ってしまうつもりだった
      • 命令:埋めてしまえ
  • 以上を勘案すると、テシマウの意味は意志性が強ければ強いほどアスペクト的意味が読み取れるようになり、弱ければ弱いほど感情評価的意味になる傾向が見られる*1
    • 謝罪で使われる「世間を騒がせてしまいまして」は、動作主体の責任の回避のために、意志性の高い事態を無意志化している

*1:論理が飛びすぎて全然分からない…、結論ありきっぽい記述。