舘谷笑子(1998.12)「助動詞タシの成立過程」佐藤喜代治編『国語論究 7 中古語の研究』明治書院
要点
- 助動詞タシの成立を連用形+イタシ、特にメダタシの語末が分出したものと考える
タシ型形容詞分出説
- 甚だしい意を持つ形容詞イタシがついた複合形容詞の語末タシが分出したものと考えるもの
- ネブタシ・アキタシ→タシ説(小林芳規)
- イタシの上位語が感覚的なねむり・飽きの場合に、情意的な意味を持ちやすく、願望の意味に至った
- しかも、連用形+イタシであるので、タシを分出しやすい
- ネブタシ→タシ説(森野宗明)
- ネブタシは願望表現に結びつきやすい
- 日常語彙として用いられている
- ネブリ+イタシで、連用形に結びつく
- これらの説の問題として、
- アキタシはタシの意味と結びつきにくい
- ネブタシもネブリイタシ→ネブタシではなく、ネブ+イタシと考えられ、連用形接続の条件を満たさない
タシとマホシ
- 今朝はなどやがて寝暮し起きずして起きては寝たく暮るゝまを待つ(栄花)
- このネタシをタシ型形容詞と考えると、「寝ることが甚だしい」と見なければいけないが、そう捉えられないので、助動詞タシの例と見る
- 平安時代末から鎌倉時代にかけて、マホシ→タシの交替が起こる
- 例えば平家では、
- マホシは地の文・会話文、アラマホシという定型的表現
- タシは、覚一本では会話文で1例のみ、延慶本では地の文にもタシが多い*1
- 天草版ではマホシはほとんど使われない
- 例えば平家では、
- タシは成立初期から口語性が強かったものと考えられる
タシの成立
- メデタシ分出説を提案する
- メデタシは中世にかけて、慶賀すべき・結構なこと、の意を持ち、この意味に収斂する
- よにめでたき御ことなり。(栄花)
- この点、メデタシは望ましいことを表し、願望表現に結びつく
- 日常語彙という性格もある
- 目出タシ/メデ度表記はメデ+タシと分出可能な環境であることを示す
- タガルの成立はメデタシとほぼ同時期で、助動詞タシ+接尾辞ガルではなく、タシ型形容詞(特にメデタシ)+ガルの語末の分出と考えられる*2
- 万葉集の「振りたき袖」はタシ型形容詞と見るべきもの(「恋痛し我が背」の例もある)
気になること
- 展望に「近世に入ると、接尾語タシからは接尾語ボッタイ・ベッタイが成立するが、その過程については改めて述べたい。」とあるが、残念ながら論文はない(多分)。とても読みたい。
雑記
- ここ数日、少々おっつかなくなってきてしまったけど150日目らしい
- 最初は知見を広げるために自分の研究に直接関係のないものを、というのをベースにしていたけれど、数カ月後に結局関係してきたりして、面白い(学部生並の感想)