ronbun yomu

言語学(主に日本語文法史)の論文を読みます

吉田永弘(2000.12)ホドニ小史:原因理由を表す用法の成立

吉田永弘(2000.12)「ホドニ小史:原因理由を表す用法の成立」『国語学』51-3

要点

  • 時間的用法のホドニの原因理由用法への拡張について、以下の過程を想定
    • 平安において、前件と後件が時間的に重なる用法
    • 院政鎌倉期に、時間的重なりを持たず、先後関係を持つ用法
    • 鎌倉時代末期に因果関係を表す用法

問題

  • 活用語+ホドニの因果用法:人ガアレバクイモノヲスルホドニ、烟ガアルゾ。(玉塵抄)
  • これまで分かっていること
    • 室町~近世頃の口頭語資料での使用率が高い
    • ニヨッテ・トコロデと交替すること
    • 「するうちに」と解されるホドニに由来するものであること
  • いつ頃・どのように、という問題が明らかでない
    • 平安時代中期説:どちらともとれる用例が見られ、さらに進んで一つの接続助詞となる、とするもの
      • 風はやきほどに腰吹きあげられつつ立てるさま、絵にかきたるやうなり。(蜻蛉)
    • 鎌倉時代説:
      • 或人目をつつむほどに、とひとぶらふ者一人もなし(覚一本平家)
    • 南北朝室町時代説:「後句の事態が存在・生起する場面を示す」ホドニから、間接的な原因理由の表示が中世により明示的になった、とするもの

時間的用法から因果的用法へ

  • 平安時代には一語化しているとは言い難く、以下の三用法がある
    • 時間的用法:まづこなたの心見はててと思すほどに[=うちに]伊予介上りぬ。
    • 空間的用法:女君は、ただ此の障子口筋交ひたるほどに[=辺りに]ぞ臥したるべき。
    • 程度的用法:いと深からずとも、なだらかなるほどに[=程度に]あひしらはむ人もがなと見給ふ。
  • 因果的用法の確例は平安時代にはないが、因果的用法の起源は時間的用法だと考えられる(従来説の踏襲)
    • 時間的用法が用例の大部分を占める
    • 因果の持つ先後関係が認められるのは時間的用法だけ
  • 時間的用法の前件・後件は、「前件句の事態の継続中に後件句の事態がある」という「重時性」の関係性を持つ
    • 前後件の因果関係の有無と、「重時性」が事態の生起を表すか、継続中の状態述語が現れるかで用法は4通りで、この範囲を越える例はない
      • 因果関係あり・生起:あながちに御前去らずもてなさせ給ひしほどに、おのづから軽き方にも見えしを、
      • 因果関係あり・状態:この五六日ここに侍れど、病者の事を思ひ給へ扱ひ侍るほどに、隣の事はえ聞き侍らず
      • 因果関係なし・生起:講の終はるほどに、歌詠む人々を召しあつめて
      • 因果関係なし・状態:清水などに参りて、坂もとのぼるほどに、柴たく香のいみじうあはれなるこそをかしけれ
      • 時間関係とは無関係に因果関係だけを表すと解釈しなければならない例がないので、因果関係が読み取れる例も二次的なものに過ぎない
  • 院政鎌倉時代には、重時性が読み取れず、時間的先後関係だけを表す「先後性」がある例が見え始める
    • ~ト云ケルホドニ、(女は)ツトメテ、箱ヲ見ケレバ、ウツクシキ小クチナハアリケリ。
    • 時間的な重なりが認められないが、これは、因果関係あり・事態生起の例から拡張したもの
    • ただし、これも積極的な因果関係があるわけではなく、依然として時間関係に関わっているものと考えられる
  • これがさらに時間関係から離れたものとして、因果的用法が発生する
    • ひとまず応永本論語抄が早いが、これは原拠本を考慮に入れると、南北朝まで遡る蓋然性が高い(例外的ではあるが、13Cの文書に見られる例がさらに早い)
  • 以上まとめ(表)

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p.78

成立要因

  • 先後関係を表すことによって、本質的に先後関係を持つ因果関係への読み替えが可能になったもの
  • 外部の要因としては、已然バが原因理由から一般条件へと移行したことで、その空き間を「二次的にせよ因果関係を読むことのできたホドニが埋めた」もの
    • (この頃同時に、未然バと已然バの並行関係も崩れていた)
    • たまたまホドニが使われただけで、アヒダ、ニヨッテ、トコロデ、サカイなども、原因理由の空き間を埋めたものと考えられる