ronbun yomu

言語学(主に日本語文法史)の論文を読みます

中世後期

山西正子(1979.2)連体形「タル」のあらわれかた:「中華若木詩抄」のばあいを出発点に

山西正子(1979.2)「連体形「タル」のあらわれかた:「中華若木詩抄」のばあいを出発点に」『中田祝夫博士功績記念国語学論集』勉誠社. 要点 タリ・タについて、中世後期においては、終止形・連体形ではタが優勢であるが、連体修飾の場合にはタルの存在も無…

山本佐和子(2012.6)中世室町期における「ねまる」の意味

山本佐和子(2012.6)「中世室町期における「ねまる」の意味」『國學院雑誌』113(6). 要点 抄物に以下のような~テネマルがあることに注目して、ネマルの語史を記述する。 盆瓶ヲ洗テネマル婦女ノアルマテソ。(四河入海) 本動詞のネマルは名語記に初例が…

劉玲(2003.2)情態副詞「セイセイト(清々ト)」の発生:抄物における「X字(原漢文)⇒XXト・ニ(抄文)」という表現法を通じて

劉玲(2003.2)「情態副詞「セイセイト(清々ト)」の発生 抄物における「X字(原漢文)⇒XXト・ニ(抄文)」という表現法を通じて」『日本語と日本文学』36. 要点 抄物に見られるセイセイトは、中国語の「清々」とは意味が異なり、漢語出自とは認められ難い…

徳永辰通(2010.1)「~ヤ-連体形」から終助詞カへの交替:天草版『平家物語』に見る交替の諸相

徳永辰通(2010.1)「「~ヤ-連体形」から終助詞カへの交替:天草版『平家物語』に見る交替の諸相」『人文学部研究論集(中部大学)』23. 要点 原拠本の~ヤ―連体形の天草版への置き換えについて。 まず、対応関係については、ヤで訳される例より、―カ。に置…

于康(1996.3)『天草版平家物語』における「なぜに」の意味用法

于康(1996.3)「『天草版平家物語』における「なぜに」の意味用法」『広島大学日本語教育学科紀要』6. 要点 天草版平家を中心に、ナゼニとそれまでの不定語との関係性を記述することで、ナゼニの史的位置について考える。 天草版平家では、ナゼニ以外にイカ…

樋渡登(2002.3)副詞「総別」「総じて」と洞門抄物

樋渡登(2002.3)「副詞「総別」「総じて」と洞門抄物」『日本近代語研究3』ひつじ書房.(2007『洞門抄物による近世語の研究』おうふう を参照) 要点 洞門抄物における「総別」「総じて」の差異を、以下の分類に従いつつ考える。 全体用法:全体を概括的に…

坂詰力治(2002.12)抄物に見える「サテ」(不可)について:「カナ(叶・適)ハヌ」との比較を通して

坂詰力治(2002.12)「抄物に見える「サテ」(不可)について:「カナ(叶・適)ハヌ」との比較を通して」『近代語研究11』武蔵野書院. 要点 「不可」の意味を表すサテが抄物に見られることについて、他ジャンルのカナハヌとの比較を通して考える。 感動詞化…

田中志瑞子(2007.3)伝三条西実隆筆『毛詩国風篇聞書』について

田中志瑞子(2007.3)「伝三条西実隆筆『毛詩国風篇聞書』について」『訓点語と訓点資料』118. 要点 景徐周麟講、清原宣賢聞書による『毛詩国風篇聞書』(以下、『聞書』)の性格と、写真・翻刻。 まず、概括的に。 『左伝』の抄物との合冊。 永正7[1510]…

外山映次(1957.12)質問表現における文末助詞ゾについて:近世初期京阪語を資料として

外山映次(1957.12)「質問表現における文末助詞ゾについて:近世初期京阪語を資料として」『国語学』31. 要点 16世紀末まで、疑問詞を用いた質問表現の基本的形式は「疑問詞+ゾ」であるが、17世紀中葉に至って、ゾの消滅した形式が多く見られるようになる…

田中志瑞子(2008.3)『毛詩聴塵』の成立:『聞書』の利用を通じて

田中志瑞子(2008.3)「『毛詩聴塵』の成立:『聞書』の利用を通じて」『訓点語と訓点資料』120. 要点 『毛詩国風篇聞書』(以下『聞書』)と『毛詩聴塵』との間には極めて類似する箇所があり、宣賢は『聴塵』の参考資料として『聞書』の記述も取り込んだも…

中本茜(2016.2)天草版『平家物語』の副詞「まことに」の付加について

中本茜(2016.2)「天草版『平家物語』の副詞「まことに」の付加について」『国文学論叢』61. 要点 天草平家が評価の語にマコトニを付加するのは、「物語理解のため」という理由を超えた編纂態度であり、編者の関心の所在や主題の所在を窺うことができるので…

古田龍啓(2022.3)副詞タシカの語史

古田龍啓(2022.3)「副詞タシカの語史」『日本語文法』22(1). 要点 副詞タシカが想起文でのみ使われ、タシカニと区別されるようになった経緯について考える。 日国では噺本(17C末)に見られる推量を伴うタシカが挙げられるが、洞門抄物に以下の例があると…

中野遙(2019.9)キリシタン版『日葡辞書』の「id est」について

中野遙(2019.9)「キリシタン版『日葡辞書』の「id est」について」『訓点語と訓点資料』143. 要点 日葡辞書の語釈に付される id est (すなわち、以下{IE})注記は、以下の構造を持ち、 注記対象の語(D)、注記する側の語(E) Xeidan.(誓断) i. Chic…

鈴木博(1982.3)『勅規桃源鈔』の国語学的考察

鈴木博(1982.3)「『勅規桃源鈔』の国語学的考察」『滋賀大学教育学部紀要 人文・社会・教育科学』31. 要点 両足院本の『勅規桃源鈔』(雲章一慶講、桃源瑞山1462抄)の資料性について。 (「諸本の概略」は原論文参照) コソの結びにサフラウメが多く現れ…

高見三郎(2001.1)国語資料としての『四河入海』

高見三郎(2001.1)「国語資料としての『四河入海』」『国語国文』70(1). 要点 四河入海には笑雲清三自筆本(東福寺本)と、古活字版の国会本(抄物大系の底本)が知られ、この他に、東福寺本に近い書き入れを有する東洋文庫本、内閣文庫本などがある。 内閣…

鈴木博(1977.12)医方大成論抄における用語の違いについて

鈴木博(1977.12)「医方大成論抄における用語の違いについて」『国語学』111. 要点 医方大成論抄の東大本・京大本の2本の間に見られる相違について。 京大本には「安芸道本」、東大本には「済庵」の奥書がある。 東大本・京大本は転写の関係になく、姉妹関…

山本佐和子(2021.3)中世室町期の注釈書における「~トナリ」の用法

山本佐和子(2021.3)「中世室町期の注釈書における「~トナリ」の用法」『筑紫日本語論叢Ⅲ』風間書房. 要点 杜詩抄に特徴的に用いられる、原典の登場人物の発話の解釈に用いられる「トナリ」について考える。 蘇源明トノハ去モノトヲ知リサウタホドニ、酒銭…

山本佐和子(2016.3)五山・博士家系抄物における濁音形〈候゛〉について

山本佐和子(2016.3)『五山・博士家系抄物における濁音形〈候゛〉について」『国語語彙史の研究35』和泉書院. 要点 杜詩抄などの五山・博士家系抄物に、濁音形「ゾウ」があり、 これは、他の文末形式(ヂャ・ゾ)と併用され、周辺的・補助的な注釈内容を示…

片山鮎子(2022.3)宮内庁書陵部蔵『論語抄』の原因理由を表す接続形式について:ヲモッテ・ニヨリ・ニヨッテ・已然形+バ・ホドニ

片山鮎子(2022.3)「宮内庁書陵部蔵『論語抄』の原因理由を表す接続形式について:ヲモッテ・ニヨリ・ニヨッテ・已然形+バ・ホドニ」『岡大国文論稿』50. 要点 笑雲清三・宮内庁書陵部蔵「論語抄」(1514成立、1600写)を対象に、以下の5形式の調査を行う。…

山田潔(2021.12)『玉塵抄』の勧誘表現:「~たらば良からう」「~て良からう」

山田潔(2021.12)「『玉塵抄』の勧誘表現:「~たらば良からう」「~て良からう」」『抄物の語彙と語法』清文堂出版. 要点 玉塵抄には以下の2種類の勧誘表現(ここでは、「発話者が対者に行為の実行を求める表現」を含む、ややこしいので以下、「勧め」とし…

妙摩光代(1979.8)『中華若木詩抄』に見る文末の「也」と「ソ」

妙摩光代(1979.8)「『中華若木詩抄』に見る文末の「也」と「ソ」」『田邊博士古稀記念国語助詞助動詞論叢』桜楓社. 要点 中華若木詩抄のナリ・ゾについて、以下の特徴を得た 先行論が博士家系を対象とすること、中華若木詩抄が単純な聞書でない(手控的性…

坂詰力治(1972.9)清原宣賢講『論語抄』における文末表現について:指定辞「ゾ」「ナリ」を中心として

坂詰力治(1972.9)「清原宣賢講『論語抄』における文末表現について:指定辞「ゾ」「ナリ」を中心として」『国語学研究』11. 要点 論語抄(宣賢抄)と論語聴塵におけるゾ・ナリについて、 聴塵においては文はナリもしくは動詞・助動詞で終止するが、抄にお…

中川祐治(2001.3)中世末期における指定辞「ぢゃ」の構文的機能について:『天草版平家物語』と原拠本『平家物語』との比較を手がかりに

中川祐治(2001.3)「中世末期における指定辞「ぢゃ」の構文的機能について:『天草版平家物語』と原拠本『平家物語』との比較を手がかりに」『国文学攷』169. 要点 平家の対照に基づいて、ヂャの機能について考える ヂャは登場人物の会話・心情、喜一の相づ…

中川祐治(2004.3)「コソ」「ゾ」による係り結びと交替する副詞「マコトニ」について:原拠本『平家物語』と『天草版平家物語』の比較を手がかりに

中川祐治(2004.3)「「コソ」「ゾ」による係り結びと交替する副詞「マコトニ」について:原拠本『平家物語』と『天草版平家物語』の比較を手がかりに」『文学・語学』178. 要点 大野(1993)の「副詞表現の発達が係り結びの衰退の要因となった」という指摘…

八坂尚美(2022.3)『虎明本狂言』と『狂言六義』における行為要求表現の対照

八坂尚美(2022.3)「『虎明本狂言』と『狂言六義』における行為要求表現の対照」『論究日本近代語第2集』勉誠出版. 要点 虎明本と天理本(狂言六義)に現れる行為要求表現について、対応する箇所を持つ例を、直接的か(命令形)間接的か(疑問、引用…)によ…

矢島正浩(1996.3)「疑問表現+しらぬ」の表現:近世前・中期の狂言台本を資料として

矢島正浩(1996.3)「「疑問表現+しらぬ」の表現:近世前・中期の狂言台本を資料として」『国語学研究』35. 要点 近世前・中期の狂言台本に見られる「疑問表現+しらぬ」について、以下3点を主張 ① 形式としては、内容的疑問(Wh疑問)の場合に、ゾを伴う→…

湯澤幸吉郎3部作のややこしい書誌情報

ややこしいのでメモしておく。 『室町時代言語の研究』 昭和4(1929)室町時代の言語研究:抄物の語法 大岡山書店 書名に誤りがあり、『室町時代言語の研究』が正しい 湯沢(1929)を『室町時代の言語研究』として引いて、再版を『室町時代言語の研究』とし…

山本佐和子(2020.3)中世室町期における「ゲナ」の意味・用法:モダリティ形式「ゲナ」の成立再考

山本佐和子(2020.3)「中世室町期における「ゲナ」の意味・用法:モダリティ形式「ゲナ」の成立再考」『同志社国文学』92. 要点 ゲナが「本体把握」「内実推定・原因推定」を主張し、ゲナリとの関係性からその意味が生まれる理由を考えたい cf. 大鹿1993, …

山田潔(2021.5)抄物における助動詞「べし」の変容:『毛詩聴塵』『両足院本毛詩抄』の本文比較

山田潔(2021.5)「抄物における助動詞「べし」の変容:『毛詩聴塵』『両足院本毛詩抄』の本文比較」『国語国文』90(5) 要点 川村(1995, 1996)の分類にしたがって、毛詩聴塵のベシの両足院本での使用状況を分類する A 観念上の事態成立主張用法 A1 現実世…

出雲朝子(1993.7)『玉塵抄』の会話文:文末の形について

出雲朝子(1993.7)「『玉塵抄』の会話文:文末の形について」『小松英雄博士退官記念日本語学論集』三省堂. 標記の問題について、会話文を以下のように分類 A 原漢文に該当する会話部があるもの 1 終結部が明示されている(「~」ト云) 2 明示されていな…