ronbun yomu

言語学(主に日本語文法史)の論文を読みます

劉洪岩(2015.3)中古日本語の統語構造に対する漢文訓読の影響:主要部構造変容を中心に

劉洪岩(2015.3)「中古日本語の統語構造に対する漢文訓読の影響:主要部構造変容を中心に」『東アジア日本語教育・日本文化研究』18

要点

  • 漢文訓読が日本語に及ぼした統語構造の変化について

問題

  • 漢文訓読によって、基本的な構造(基本語順)は影響を受けなかったが、「表層的な統語構造」の範疇に新たな統語構造が成立したとの指摘がある
    • 「語用論的に有標な統語構造」の発生として捉えられる
  • 例えば、「補部+主要部から主要部+補部へ」という変化
    • 苦哉我失愛子。/苦シキ哉、我が愛子を失ひつラク
  • このような主要部構造の変容を整理する

名詞主要部構造の変容

  • 同格構造(App+N > N+App)*1
    • 五百阿羅漢得受記者白仏言世尊…/五百の阿羅漢の、受記を得たる者、仏(に)白(して)言(さく)、(龍光院法華経
  • 数量詞構造(数量詞+N > N+数量詞)
    • 士庶百千万亦随王出城。/士庶ノ百千万なるい亦王に随(ひ)て城を出(で)ヌ。(金光明)
    • 数量詞は体言の下に来て、叙述になるときは~ナリをとる(春日政治の指摘)
    • この影響で、和漢混淆文には二種の語順が存する
      • 亦、仏舎利三千粒有ケリ。…彼ノ唐ヨリ持渡リ給ヘリケル三千粒ノ仏舎利、招提寺二子今在マス。(今昔)
  • 形容詞修飾構造(Mod+N > N+Mod)
    • 地平如掌琉璃所成。/地の平(か)なること掌(の)如(くし)て、瑠璃に成(さ)所たり。(龍光院法華経

動詞主要部構造の変容

  • 補文節構造の変容(Comp+V > V+Comp)
    • 見我牟尼尊悦意妙音声演説斯経典。/見ヨ我レ牟尼尊の悦意の妙音声をモチテ斯の経典を演べ説(き)たまふを。(金光明)
    • 定知無我。/定(め)て知(り)ぬ、我無シ。(大般涅槃経
  • 引用節構造の変容(Quo+V > V+Quo)
    • 幸願敬奉之倫無軽聖教耳。/幸に願(は)く(は)、敬奉(の)之倫、聖教を軽むこと無(か)ら(まく)耳(寄帰伝)

雑記

  • モスのおばちゃんの注文、「モスライスバーガー(HLLHHHLLL)、あ、モスライスバーガー(LHHHHHLLL)を一つ」

*1:以下、度々「主要部を強調するために」との説明があるが、原文の語順に引かれているだけだと思う