近藤泰弘(2012.2)「平安時代語の接続助詞「て」の様相」『国語と国文学』89-2
要点
- 近藤(2007)の補強と詳細な分析
問題
- A類:て・ながら・ず(否定)・で(否定)・連用形
- TAMを含まない
- B類:とも・ば(仮定)・は(仮定)・ば(確定)・ども・ど・ものの・ものから・ものゆゑ(に)・つつ・て・で(否定)・ず
- む・らむなどを含まない
- C類:を・に・が
- ほぼ含む
- 近藤(2007)では「て」をA類とB類の二種に振り分けた
- A類て節 第2種副助詞が後接 統語環境として、評価副詞が節内に入らない
- B類て節 第2種副助詞が後接しない 統語環境として、評価副詞が節内に入る
- 特に第2種副助詞(のみ・さへ・だに)を見ていくことで、
A類「て」節
- のみ、さへ、だにを後接するものを見ていく
- かくて:かくてのみ、止みたまひべき御身にもあらず(大和)
- さて:さてのみやはあらんとする(蜻蛉)
- して:さしてのみまいりくればにやあらん(蜻蛉)
- とて:ひねもすに待つとてさへもなげきつるかな(大和)
- にて:法師のあらむやうにてのみ歎きわたり給ひて(うつほ)
- 名詞に類似したものを承けるにて:かやうにてのみは、え過ぐし果つまじ(源氏)
- 形容詞連用形:かくはかなくてのみいますがめるを見捨てては(大和)
- 動詞連用形のA類の場合:おぼししづみてのみおはするを(夜の寝覚)
- これら動詞連用形+て+副助詞は、「かくて」「さて」の場合と同様の述語を取る
- かくてのみあるをば、いかが思ふ(蜻蛉)
- A類「て」は付帯的状況を示す表現に偏り、「て」は副詞的
B類「て」節
- 意味分類を示す
- 並列:知らぬ国に吹き寄せられて、鬼のやうなるもの出で来て殺さんとしき(竹取)
- 継起:まことに明け方になりてぞ、宮帰り給ふ(源氏)
- 原因理由:道にてやまひしてなむ、死にける(大和)
- 評価を示す副詞の「まことに・さすがに」が共起する場合、「て」に副助詞が後接することはない
疑似分裂文と「て」
- 現代語において、A類「て」は疑似分裂文になるが、B類「て」はならない
- A類(付帯状況):太郎が運転していたのは、よそ見をしてだ。*1
- B類(並列):*おばあさんが川に洗濯に行ったのは、おじいさんが山に芝刈りに行ってだ。
- (継起):*改札を抜けたのは、電車を降りてだ。
- (原因):*学校が休みになったのは、台風が近づいてだ。
- 平安時代語についても、「てなり」の疑似分裂文はほぼA類が占める
- 君のおんもとよりといはせよとてなりけり(うつほ)
- かかる事のまぎれにてなりけり(源氏)
- あえかに見えたまひしも、かく長かるまじくてなり。(源氏)
- 原因を示す「よりてなり」も疑似分裂文になれる(現代語では不可)
- 夏虫の身をいたづらになす事もひとつおもひによりてなり(古今)
- 「原因理由は等位構造だから疑似分裂文を形成できない」とすると、「寄る」の意味が強かった可能性が高い
- 副助詞が接続しないのでB類の可能性もあるが、ここではA類と考えておく
雑記
- 今年貯金減ってた…と思ったら科研の旅費が振り込まれる口座のことを失念していただけで、どでかいお年玉をもらった気分でとてもハッピー
- リスが隠した餌を忘れているようなもんである
追記(2020/6/1)
- 高野本平家で「いかさま是は、祇といふ文字を名についてかくはめでたきやらむ」とあるところを天草版は「あはれこれは祇と言う文字を名についたによってこのやうにめでたいか。」としていて、見事だな~と思う
*1:行けるのか?