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言語学(主に日本語文法史)の論文を読みます

小田勝(2008.3)「しもは」考:「はしも」と「しもは」と

小田勝(2008.3)「「しもは」考:「はしも」と「しもは」と」『国語研究』71

要点

  • 係助詞とされてきた「しも」が係助詞に上接する例「しもは」の検討

問題

  • 助詞シは中古において、係助詞モと複合したシモのみが広く用いられ(この点で複合辞的)、副助詞ではなく係助詞であるものとされてきた
    • 格助詞・係助詞の下位にあるため
    • 女の、これはしもと難つくまじきはかたくもあるかな(源氏)
  • このように一般には「はしも」であるが、「しもは」の例もある
    • いとかうしもは聞こえざりしをと親王たちも驚き給ふ(源氏)

「はしも」と「しもは」

  • 用例数としては、「はしも」が断然多い
  • 「はしも」は全て名詞句承接で、以下の句型を取る
    • 1 一般的な事柄はしも~ども、特別な事柄は~
      • 天の下に国はしもさはにあれども山川の清き河内と(万36)
      • 万葉集にしか見られず、万葉集は全てこの例
    • 2 Aは~、Bはしも~
      • うちとけて君はねつらむ我はしもつゆのおきゐてこひにあかしつ(大和)
    • 3 一般的な事柄は~、特別な事柄はしも~
      • [一般的には]つきなげにこそ見え侍れ。ひとへにものづつみし、ひき入りたる方はしも[=だけは]、ありがたうものし給ふ人になむ(源氏)
      • 源氏は全てこの例
  • 「しもは」は以下の句型を取る*1
    • 1 副詞句+しもはー打消(~ほどに~ではない)
      • いとかうしもは聞こえざりしをと親王たちも驚き給ふ(源氏)
      • 心やすくしもはあらざらむものから、(源氏)
      • カクシモハ臆セジ物ヲ。(延慶本平家)
      • 副詞句を打消の焦点として、打消の範囲を副詞句に限定するもの
    • 2 ~としもはなけれども(というわけではないが)
      • なに事ををしむとしもはなけれどもいとふにかたきうき世なりけり(続千載和歌集
      • 「と」は打消の範囲を限定するもので、上の句型と同様のもの
  • 以上、「はしも」と「しもは」は句型が大きく異なる

「しも」と「はしも」「しもは」

  • 「しも」に二種の用法がある
    • しも① 特にその事柄をとりたてて示す意、「~に限って」
      • 今日しも端におはしましけるかな
    • しも② 打消の及ぶ範囲を部分的に限定、「~ほどでは/必ずしも~ではない」
      • 男君ならましかばかうしも御心にかけ給ふまじきを、
  • 「はしも」は前者、「しもは」は後者で、
    • 格助詞>しも②>は>しも①
    • という承接順序になる
  • 「副助詞は係助詞に上接」「係助詞の承接順序は一定」という山田孝雄の規則を適用するならば、「しも①」は係助詞、「しも②」は副助詞とすべきである
    • 注17、「このことからは、「も」にも副助詞と係助詞とがあると考えられることが示唆される。」

雑記

  • インスタントラーメンを作ろうと思い、レンジ調理器に麺と水を入れたところ、粉末スープが見当たらない。机に置いたのかと思ってあらかた片付けてみてもなく、台所のゴミ袋の中にもなく、キッチンにもなく、仕方ないから湯を捨てて油そばにでもするか……と思って蓋を開けたら、麺の下からアツアツになった小袋が出てきた

*1:東関紀行に「かやうの事どもを見聞くにも、心とまらずしもはなけれども、文にも暗く武にも欠けて、終に住み果つべきよすがもなき数ならぬ身なれば、」のあり