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言語学(主に日本語文法史)の論文を読みます

吉田永弘(2015.5)『源平盛衰記』語法研究の視点

吉田永弘(2015.5)「『源平盛衰記』語法研究の視点」松尾葦江『文化現象としての源平盛衰記笠間書院

要点

  • 延慶本・覚一本との比較により、源平盛衰記の後代的言語現象を探る

前提

  • 源平盛衰記は14C前半成立だが、現存伝本は16C中頃以降成立
  • 慶長古活字版には、原本の本文成立時にある新出語(中世語的現象)に、さらに新たに生まれた新出語があることを念頭に置きつつ、新出語・語法を見ていく

新出語

  • 例えば、泣く様子を表す「ミロ〳〵ト」が、日国の初出例にあり、延慶本・覚一本にはない
    • が、これは盛衰記の語彙量の多さに起因するだけかもしれず、14世紀に出現し得ないことの証明にはならない
  • 前の時代に代わりとなる語が存在する場合、後出の語と見なせるかもしれない
    • 徐(よそ)ガマシクの例が、延慶本・覚一本では「よそに」とある

新出語法

  • 二段活用の一段化は後代的
    • うち、異文があるもの(古活字版で「聞エル」、近衛本・蓬左本で「きこゆる」)は、古活字版時点での新出語法
  • 漢文訓読に由来する「連体形+の+名詞」構文
  • 「周章死に失給き」について、
    • 「周章」(あはて)は、覚一本などには「あつち」(あつつ)、盛衰記のものは「あつつ」の語義が分からなくなったために類似するカタカナ語形の「アワテ」と解釈したことによるもの
    • 「死に失給き」の箇所は、「~死に+死に」が延慶本など、「~死に+す」が覚一本、「~死にに失す」が盛衰記にあり、他資料を見てもこの順で出現している。盛衰記はこの点において、延慶本・覚一本より新しい語法を取り入れている
  • 「たとひ」が已バトテ、名詞マデモと呼応する。このような例は延慶本・覚一本にはなく、狂言六義や浮世草子に見られる
  • 中世後期、ナラバの上接語に活用語が進出するが、平家の活用語ナラバを見ると、覚一本は動詞のみ、延慶本は動詞・ベシ・マジ(応永書写時の現象の混入か?)、盛衰記にはベシ・形容詞・ムの例がある
  • 「召さる」を「する」の尊敬語として用いる例がある。延慶本・覚一本にはなく、日国の初例は史記抄。斯道本や天草平家などの中世後期成立のテキストには見られる

雑記

  • 杉を燃やそう