田村隆(2007.12)「いとやむごとなききはにはあらぬが:教科書の源氏物語」『語文研究』104
要点
- 桐壺冒頭部が、ほぼ逆接として読まれてきたことを示す
問題
- 「いとやむごとなききはにはあらぬが」の「が」についての教科書的説明として、同格の格助詞であること、接続助詞ではないことが揺るぎないことのように説かれるが、逆接として解釈されてきた歴史の方が長いということが見過ごされていないか
- その「誤答」の歴史を見ていく
ガの解釈史と逆接の解釈
- 松尾捨治郎(1933)『国文法概論』や吉澤義則(1937)『対校源氏物語新釈』が早く、石垣(1955[1944])により広まった
- が、実は格助詞とする解釈は必ずしも定着していない。例えば、
- 逆接のイメージが定着している事例
- 「それほど身分の高い人[ ]、大層御寵愛を受けておられる方がいた」の回答にも逆接が多く、
- 「いとやむごとなき際にはあら{ぬが/ねど}」を選択させた際に「ねど」の回答が多い
- 明治における梗概書においても、「あらぬが」よりも「あらねど」と訳されたものが多い
逆接の解釈史
- 逆接のイメージの形成の例を遡っていく
- 戦後の教科書は逆接と格助詞で揺れがあり、試行錯誤の跡が見られる
- 同格のガとして読んだのは源氏成立直後と昭和に入ってからの数十年というわずかな時期に過ぎないが、「定番化した練習問題をめぐる授業風景からその事実を想像するのは難しい」