彦坂佳宣(2006.10)「準体助詞の全国分布とその成立経緯」『日本語の研究』2-4
要点
- 方言における準体助詞について、
分布と問題
- 準体助詞に関連する用法を以下のように分類(狭義の準体助詞はc, d)
- a 連体格
- b 連体格的準体助詞:今のあるじも前のも
- c 代名詞的用法:せんどそちへわたいたのは
- d 活用語括り:行くのは良いが
- e 接続・述語成分形成:ノデ・ノニ・ノダなど
- 全体として、ガがa-eへの発達しながら伝播し、ノがそれを塗り替えながら伝播する
連体格
- 「俺の」「先生の」でガ・ナが古態性を示す
- 「俺の」にガが多く、中世の尊卑が引き継がれたものか
- 「百円分」にガト・ガン・ガナ(連体格+代名詞的用法)などの複合形がある
- 尊卑が生まれる前の状況を示すものか
連体格的準体助詞・代名詞的用法
- ノ・ガはaからcへと準体助詞化を進めつつ、ガが中央語から伝播し、次に新しいノが伝播を始める
- 「この手拭はおれのだ」などにおいて、
- b 連体格的準体助詞:俺ノダ、俺ガダ
- ガ・ナの古態性、ノの新しさがここでも示される
- c 代名詞的用法:俺ノノダ、俺ガノダ、俺ガトダ
- ガ(北陸・土佐など)はbと同様の地域に現れ、bとcの近さ、その古さを示す
- 「俺ノガダ」は、連体格ガが早く準体助詞化し、連体格にノが侵入したものか
- 「俺ガノダ」が、古い連体格ガに新しい準体助詞ノが侵入したと考える
- 九州では連体格ガに対して新しくトが現れる
- ガ(北陸・土佐など)はbと同様の地域に現れ、bとcの近さ、その古さを示す
- b 連体格的準体助詞:俺ノダ、俺ガダ
活用語括り・接続述語成分形成
- これもやはり、ガが先行、ノが後発的に塗り替えていくもの
- e 「植えたのに」「行くのでは(ないか)」では、九州にト、土佐と北陸にガ、新潟~山形でガン(<ガノ)、山形以北にナ(<ナリ)
- d 「行くのに(便利だ)、「(ここに)有るのは」も同様
文献から見ると
- 中央語においてガはa, b までしか見られないので、c以降のガは方言独自の発達と見る
- 地域方言において、ガン、ナ・ヤツ、ガ、トは近世後期には十分確立していたことが分かる
- 新潟のガンは近世後期まで遡る
- ふなのやいたがんもあるはの(新潟地方洒落本)
- 新潟はかつてガ、その後ノが伝播し、地域的変化の中でガンが成立したもの
- 江戸語のガノは連体格ガ+準体助詞の域を出ないので、これが直接ガンになったとは考えにくい
- 東北日本海側のナは、近世後期庄内郷土本の例がある
- 俺な(b)、勤だな(d)、なだ(e)があり、
- 連体格は表示ゼロの場合が多く、こうした用法の中では連体格が準体助詞化する見込みは薄い
- 土佐のガは、幕末の武市瑞山書簡に見られ、準体助詞化したガが強い
- 連体格にノが後から侵入したと見る
- 九州のトは引用のトによるものか。ゴンザ資料にeの段階のものも見られ、近世中期には確立したもの
- 新潟のガンは近世後期まで遡る
まとめ
- ノガ中央、ガが周辺にあるのは、ノ・ガの尊卑と、その後の構文上の機能分担と関わる
- ノ・ガの使い分けのある地域は準体助詞ガの地域とかなり一致する
- 九州の場合はトが活発になり準体助詞化したことでガの準体助詞化が阻止された
- 土佐は連体格に限りノ・ガの尊卑傾向があり、北陸なども含め、ガ準体助詞の地域は中央と比べてガ連体格が遅くまで維持され、準体助詞化した
- 一方の中央語はガ・ノの機能差によってガがb以降に発達せず、ノ連体格からの準体助詞化が促進された
- 中央語が早く近代性を獲得し、それが周辺に影響したと考えられがちだが、地方独自の準体助詞化の時期は中央とはそれほど大差がない
雑記
- じゅん菜を見ると準体のことを考えてしまうが、その逆は起こらない