坂井美日(2015.7)上方語における準体の歴史的変化
坂井美日(2015.7)「上方語における準体の歴史的変化」『日本語の研究』11(3)
要点
- ゼロ準体からノ準体の移行について、
- ノの付き初めには形状・事柄のタイプに差はなく、ノ準体化は形状タイプが先に進行したことを示し、
- ノの起源に「属格句ノ」の、連体形節に対する統語的類推を想定
- 「準体助詞準体への移行は形状タイプが先行」という仮説を提示
前提
- ゼロ準体の衰退と準体助詞準体(ノ準体)の発達について、
- 信太説(終止形連体形の合流によりゼロ準体が中世末に衰退、中世末~近世初期にノによる補償、明治頃までに発達)には時期の問題がある
- 終止形連体形が合流しているのにゼロ準体が衰退していない方言もあり、要因として認めがたい
- 形状タイプが先行し、代名詞的ノに起源を求める青木(2005)の推定は実情とは異なる
- 両タイプ同時説は現在受け入れられていないが、覆されるほどのものでもない
- 実際のデータと方言のデータに基づき明らかにしたい
調査
- ノ率を調査すると、
- 近世中期Ⅰ(元禄~宝永)~Ⅲ(明和~安永)まで形状タイプと事柄タイプには有意差がない
- 形状タイプは近世後期Ⅰ(寛政~文化)にノ準体への移行が進展する
- ゼロ準体は数字的には衰退していないが、形容動詞に残ること、知識層まがいの話者の発話であることなど、衰退を窺わせる
- 事柄タイプは近世後期Ⅱ(文政~天保)以降にノ準体へ移行
- 以上より、ノはタイプに関係なく付き始め、ノ準体への移行が形状タイプから進行した、と考えられる
ノの起源と変化の方向性
- 代名詞説は、明和~安永まで両タイプへの付接状況が同様であったという事実を説明できない
- ここでは「属格句+の」説を想定
- 人妻とわがのとふたつおもふには(好忠集)/伊勢がのがすぐれて面白といふなり(耳底記)
- 初出の時期が早いのが問題となりそうだが、初期の例は一人称「わがの」に限られるのに対して、中世~近世初期には代名詞のバリエーションが広がり、生産性を獲得したと考えられるので時間差は問題とならない
- また、連体形節+ノの発生について、補償関係は想定せず、統語的類推によるものと考える(「連体形節は元より, 連体修飾用法と名詞用法(=ゼロ準体)を持つ点で統語的に属格句と通じる。」)
- 上方語、江戸語、宮古語の観察から、「準体助詞準体への移行は形状タイプから進む」という一方向性が想定される
- 形状タイプ側そのものに要因がある、と考える
- ゼロ準体が欠落のある連体修飾節として再解釈されたものか?
雑記
- アルコール摂取するとアレルギー出るようになってきた…?