ronbun yomu

言語学(主に日本語文法史)の論文を読みます

金銀珠(2022.1)主格助詞「が」の拡大と準体法の衰退

金銀珠(2022.1)「主格助詞「が」の拡大と準体法の衰退」『中部日本・日本語学論集』和泉書院.

要点

連体形+ガが、主格のNガの確立の際に与えた影響について、以下4点を主張する

  1. NガにおけるNは、古代語では指示対象が明確であるが(金2016, 2019)、中世末には「直接指示でもなく連体修飾も伴わない人名詞以外の名詞句」も見られるようになる
  2. 中世以降のガの前接語は、連体修飾を受ける例が増加する
    • つねにもまいらぬものが参じたるは何事ぞ。(平家2)
    • 人名詞や形式名詞が多く、これによってNガの前接語の幅も広がった
  3. 連体形ガ(準体句)はコト・ヒト型が置く、2点目のNガの傾向と類似する
    • 渡殿に 、中将といひし(人)が局したる隠れに移ろひぬ。(源氏・帚木)*1
    • 連体形ガの衰退期*22点目の変化が起こることと、形式名詞ガの例が中古までは見られないことを踏まえると、
    • 連体修飾を受けるV+Nガが、連体形ガに変わるものとして拡大した可能性がある
  4. 新情報を提示するガの広がり(金2020)*3は、それまで連体形ガが果たしていた役割を引き継いだ可能性がある

雑記

  • 4本ノック おわり
  • 青木・坂井・原口のいうことと時代的に整合しないのはまあそうだろうけど、土岐(2009)以降(特に主格に立つ準体句を扱う2010と、まとめの2017)の言うこととはどう整合してどう整合しないんだろうというのが気になった

*1:コト・ヒト・モノの3種が示されているが、モノ以外の2種でほとんどを占めてしまうのは、まあそうなのでは…?

*2:信太を引いていて、衰退期を早くとる立場

*3:ここで言う新情報、どういうタイプの新情報なのかよく分からない