ronbun yomu

言語学(主に日本語文法史)の論文を読みます

矢島正浩(1996.3)「疑問表現+しらぬ」の表現:近世前・中期の狂言台本を資料として

矢島正浩(1996.3)「「疑問表現+しらぬ」の表現:近世前・中期の狂言台本を資料として」『国語学研究』35.

要点

  • 近世前・中期の狂言台本に見られる「疑問表現+しらぬ」について、以下3点を主張
    • ① 形式としては、内容的疑問(Wh疑問)の場合に、ゾを伴う→伴わない という移行が見られ、これは、シラヌを下接しない通常の疑問表現と同様の傾向
    • ② ただし、17C後期以降成立の台本では、~シラヌの場合は通常の疑問表現に比して、ゾを伴う度合いが低い
      • 「「しらぬ」を下接することにより、「疑問表現の文末ゆえにゾを用いる」という規範意識が届きにくくなった」ことに起因し、
      • この時期に「「疑問表現+しらぬ」が一続きの表現として慣用化した」と考えられる
    • ③ 通常の疑問表現に対して、「話者自身の問題として疑念に向き合い、あれこれと思いを巡らす」「発話時点では解答を与えることができないという認識を表す」場合に用いられる
      • 外的世界を対象とする場合、内的世界を対象とする場合のどちらにも言える
        • お布施の沙汰がない。わすれられた物てあらふ。但シけふはおそふまいったによってくれられぬかしらぬ。(拾遺・布施ない)…「話者は、直面した現実に疑念のある状態から一刻も早く脱したく、あれこれ考えざるを得ない」(p.18)
      • この、単純な「疑い」では表し得ない意味を示せる点が、成立・定着した事情を説明する

雑記

  • 科研が、○○○の季節がやってきたな