ronbun yomu

言語学(主に日本語文法史)の論文を読みます

山田潔(2019.9)『両足院本毛詩抄』における「う」「うず」の用法

山田潔(2019.9)「『両足院本毛詩抄』における「う」「うず」の用法」『近代語研究』21

要点

  • 概ねウはムの用法を継承し、ウズはベシを継承するが、毛詩聴塵と毛詩抄(両足院本)の対応関係は必ずしも「ム:ベシ=ウ:ウズ」ではない
    • 報スベキニ - 報セウ物ヲ
  • このことを踏まえて、ウ・ウズの用法の特徴を考える
  • ウズについて、
    • 接続表現において、ウズは逆接において多く用いられるが、ウは中立的である
    • 順接仮定・確定の帰結にウズが用いられることが多い(確かな推量を表すことの現れ)
  • ウについて、
    • ウには仮定条件を表す用例が多い(ウニハ・ウトモなど)
    • 意志表現ではウトテがあり、ウズトテがない(ウが願望に近い内発的意志を表すことの現れ)
    • 目的のタメニもウタメニが多くウズタメニが少ない*1
    • 慣用表現ウコトゾ(当為)、ウヤウガナイ(不可能)が用いられる
    • 史記抄・毛詩抄・蒙求抄と比べてわかること、
      • 目的表現は本来ウの意味領域であり、ウコトゾ・ウヤウガナイは元々ウズの意味領域であったが、後者はウズの「退潮とともに、ウに侵蝕されて来た」
  • 連体修飾において、
    • ウ人は「実現することが自明」な事柄の場合、ウズ人は当為に偏る
    • その他のウズの連体修飾は「前兆・予告・気配などを表す体言」に係る
  • 「以上、ウズは、「~うことぞ」「~うやうがない」等においてウに侵蝕されている傾向は見られるものの、本来の確かな推量・当為の意味用法を依然として維持していると結論付けられる」

雑記

  • 山田先生の「うず」シリーズ、おしまい

*1:これはもともとのムタメニから引き継いだだけで、ウズとの対比で考えることでもないような気もする