古田龍啓(2020.9)清原良賢講『論語抄』の諸本について
古田龍啓(2020.9)「清原良賢講『論語抄』の諸本について」『訓点語と訓点資料』145
要点
- 東山本の良賢抄は『応永27年本論語抄』としてよく使われるが、誤写の問題については看過されている
- 東山本、米沢本、大東急本、両足院本と、良賢抄の書き入れがある慶応本を使用して本文の特徴・諸本関係を明らかにしたい
- 諸本の異同について、
- 東山本、大東急本は経文を全て掲げるが、米沢本、両足院本は一部を示すのみ
- 東山本、大東急本には「私曰」類の注記(書写者によるか)があるが、米沢本、両足院本にはない
- 本文は概ね東山本と大東急本が一致し、両足院本と米沢本が一致するので、この2系統に分けることができる
- 系統間の比較、
- 両足院本・米沢本系統は東山本・大東急本系統に比して解説が詳細である
- 「叙シテ曰ノ叙」(漢字の使い方)、難解語への注記、固有名詞への「国」などの明記
- 「読み手の理解を助け、内容の明瞭化に資する」もので、新たな解釈を提示するものではない
- 東山本・大東急本が口語的表現を用いる箇所で、両足院本・米沢本が文章語を使うことがある
- タとキ、サヘとダニ、大キイと大キナリ、マイとマジイ
- 口語的要素が減り、「読み物として整理されている」
- 両足院本・米沢本系統は東山本・大東急本系統に比して解説が詳細である
- 同一系統間の比較、
- 東山本と大東急本は共通の誤脱・誤写を持つが、直接の転写関係にはない(共通祖本を持つ)
- 両足院本に比べ、米沢本には誤脱が目立つものの、米沢本独自本文もあり、やはり転写関係にはない
- 東山本には誤りが多く、注意を要する
- 原拠本にそもそも誤りが多かったというのが一点
- 東山本独自の誤りもあるので、米沢本との比較検討を行うべき
- 慶応本の書き入れは東山本系とされる(中田解説)が、むしろ概ね両足院本・米沢本系統と一致する
- 以上の関係を図示すると、
- 宣賢抄『論語聴塵』は両足院本・米沢本によく一致する
- 東山本に基づくと「宣賢が加筆した」ことになるが、そうではない
- ただし、東山本・大東急本系統も参照していたらしき箇所もある
雑記
- 発表のときも面白かったし論文読んでも面白かった