ronbun yomu

言語学(主に日本語文法史)の論文を読みます

ローレンス・ウエイン(2011.10)琉球語から見た日本語希求形式=イタ=の文法化経路

ローレンス・ウエイン(2011.10)「琉球語から見た日本語希求形式=イタ=の文法化経路」『日本語の研究』7(4).

要点

  • 本土日本語の=イタシ(タシ)には以下の経路が想定されているが、2つ目の変化は類型的には支持されない
    • 痛し > 甚し > 希望
  • 琉球語鳩間方言では -pus-(ホシ系)と -cca-(イタ系)が併用され、-pus- が一般的な願望を表す一方で、-cca- は不随意の身体機能を表す動詞と共起する
    • numi-pus-aɴ 飲みたい は一般的な願望、 numi-cca-nɴ は「生理的に欲求する「水を渇望する」ほどの意味」
    • 同様の使い分けは、仲地、北琉球大宜味村津波)にも見られ、「イタ形式は「痛みを感じるほど痛烈に感じる状態に達する」という意味から発達したと考えられる」
    • 一方、黒島東筋方言のイタは感情的な必要性を表し、以上より、以下の段階が想定される

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p.33

  • この「痛い>希望」という変化は類型的にはやや稀であるので、独立した改新ではなく、琉球祖語の段階で起こっていたと考える方がよい
  • 本土日本語の場合も同様に考えるのがよく、すなわち、希求の(イ)タシは「甚だ」ではなく、不随意身体機能の痛みに由来すると想定する*1

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p.35

メモ

  • タシ諸説
    • タシ型形容詞のうち、特にネブタシ・アキタシ(小林芳規
    • ネブタシ(森野宗明)
    • メデタシ(舘谷笑子)
    • イタシ説が「一般に信用されている」(松村編文法大辞典・吉田金彦)、「説があるが確実でない」(山口編文法大辞典、山口明穂)

雑記

  • 昼以降にしか起きられないので日々にノルマを課すとそれだけで一日が終わる

*1:中古以前に現れない理由を、文献の少なさと資料への現れにくさを挙げるけど、それでいいんかなあ。上代に出ない理由はそれだけでは説明できないのでは。