ronbun yomu

言語学(主に日本語文法史)の論文を読みます

川瀬卓(2021.6)副詞「ひょっとすると」類の成立 : 副詞の呼応における仮定と可能性想定の分化

川瀬卓(2021.6)「副詞「ひょっとすると」類の成立 : 副詞の呼応における仮定と可能性想定の分化」『語文研究』130/131.

要点

  • ヒョットスルト類(スルト/シタラ/シテ)が擬態語に由来することと、類義語であるモシカスルトが同じ構成要素を持つことに注目して、当該副詞の成立と、副詞の呼応の問題について考える。
  • まず、ヒョット類の史的展開について。ヒョットは1700初頭から仮定や可能性想定を表すようになり*1、近世末になると可能性想定を表すヒョットスルト類が現れ、近代以降にはヒョットが衰退する。
  • この仮定・可能性想定の意味分化について、
    • モシも同様、古代語では仮定・可能性想定の両方を表すが、現代語では、前者をモシ(~タラ)、後者をモシカスルトが担う。
    • 歴史的にはヒョットスルトに遅れて、モシカスルトが現れる。モシ系が、ヒョットスルト類の影響を受けて成立した(かつ、呼応が生まれた)ものと考える。
  • この、副詞の呼応における仮定と可能性想定の分化は、田中(1965)の「分析的傾向」とも符号する。
    • 深津(2016)の、「ちょっとの」と「ちょっとした」の棲み分けも想起される。

雑記

  • なんで仮定条件が明示されるんかなというのが気になるよね

*1:方言にはあるやつ