楊瓊(2017.12)「原因理由を表す「によりて」について:漢文訓読の影響をめぐって」『表現研究』106*1
要点
- 原因理由を示すニヨッテが「おかげで」のようなプラスの意で用いられるようになるのは、漢文訓読(特に仏典)のおかげ
ニヨッテ成立説諸説
- 漢文訓読の影響説(築島1963)
- 日本語内部での発達説
ニヨッテの評価性
- 和文系統では中古に至ってもほぼマイナス(2節)、訓読文系統でプラスが現れ(3節)、和漢混淆文で受容される(4節)
- 繁きによりて(尓因而)[=のせいで]淀むころかも(万630:例1)
- 此は一切の功徳善根に依(り)て〔而〕生起すること得。(最勝王経古点:例14)
- 金剛般若経ヲ転読シ給ヒシヲ聞シ功徳ニ依テ、今、人間ニ生ズル事可得シ。(今昔7-10:例22)
- 「頼る・助く」の意を持つ「依」をニヨリテと訓読したことにより拡張したものと捉える
気になること
- マイナスのものに「依る」ことができなかったのであればそれはニヨッテの問題ではない、本動詞の例を見ても善い感じのものに「依る」例に偏っている
- なので、ニヨッテに限らない、ヨル全体の問題として起こっていることと認識したほうがよいか
- 悪いものに「因る」「由る」本動詞の例を挙げておく
- 身有ルいは皆煩惚に因ルことを。(成実論16)
- 故(に)知(る)四生の差別は皆貪愛に由ルこと(を)。(同)
- ニヨッテ成立に関して、かなり早い段階で本動詞の「因る」が「起因」の意で因果関係を構築することに留意する必要があるのでは(例は全て成実論巻13)
- 又諸の悪道は皆不善に因ル。
- 又諸の煩悩の生することは皆〔於〕貪に因(り)てなり。
- 「因故」の訓も気になる
- 若(し)心決定する是を籌量に因ル故の欲愛と名(づ)く。
- 守護するに因(る)が故に鞭杖刀鞘等を備(ふ)。
- 「プラスのことは言えないという制約が最初からかかっていた」とするとその背景事情の説明は難しいので、「非プラスからプラスへ」よりも「マイナスから非マイナス(ニュートラル&プラス)」という拡張の方がしっくりくると思うのだが、実態はそうではないらしい