志波彩子(2016.1)「近代日本語の間接疑問構文とその周辺:従属カ節を持つ構文のネットワーク」『国立国語研究所論集』10
間接疑問文の発達について、高宮(2003*1, 2004, 2005)を承けて、明治期の共時的なあり方がどうであるかを報告
- 2004, 2005については以下参照
- 高宮(2004, 2005)では、
- ヤラ間接疑問は室町頃、カ間接疑問は少し送れて成立
- カ間接疑問は、構文タイプとして、選択・肯否・疑問詞の順に成立
- カ間接疑問において、主節述語は、未決(知らぬ)から展開
間接疑問文のパターン
- 典型的な間接疑問構文
- a 主語と述語を持つ節に助詞「か」 が後接し,そのカ節を直接に受ける動詞(主節述語)がある。
- b カ節の直後に格助詞や主題・取り立て助詞(「は」「も」等)が後接することができる。
- c カ節内には,打消しや時制,ノダ文の「の」は含みうるが,ダロウや丁寧は含み得ない。
- 周辺的な間接疑問構文として、
- 複雑述語:彼が約束を守るのか疑問が残りますか(bに違反 *守るのかを)
- 依存構文:誰と結婚するかで彼女が幸せになれるかが決まる(2つの間接疑問節を持ちうる)
- 間接感嘆構文:彼は自分がいかに幸せかを思った(確定した事実で、疑念はない点などで典型的でない)
- 照応構文:何人がパーティーに出席したのだろうか、私はそれを知らない。(b, cに違反)
- 潜伏疑問構文:何人がパーティーに参加したのだろうか,私は参加人数を知らない。(b, cに違反)
- 内容構文(名詞がカ節を受けるもの):時代におくれやしないかなどいう考えは、(aに違反)
- 二文連置構文:宮ははや気死せるか、推伏せられたるままに声も無し(a, bに違反)
- さらに以下の構文を追加
- 引用構文:昔よりも今の方が却て肥っていはしまいかと疑れる位であった。
- 比況構文:あたかも地の底から湧出たかのように思われ、
- 前後構文:寄席はつい小半町行くか行かない右手にあったのである。
- 寛容構文:~のみか、ばかりか、するが早いか
- 選言構文:向うで聞かぬ上は乗り越すか、廻らなければならん。
明治期テキストの分析結果
- 典型的な間接疑問文では、
- 主節述語は未決タイプが優勢なまま
- 「どんなに辛かったか知れない」のような、間接感嘆構文と近いものあり
- 「山嵐はどうなったか見えない」のような、未決のようで二文連置と捉えたほうがよいものもあり
- 一方、対処タイプは(江戸後期には制約があったが)かなり自由に用いられている
- 既決タイプも十分な例数があり、江戸後期に見られた主節述語の形態的制約(願望か命令)が見られない
- 主節述語は未決タイプが優勢なまま
- 周辺的な構文に関して、
- 依存構文は「一般的な人々にとっての疑問」であり、既決タイプと体系上近い
- 照応構文は意志推量・丁寧形を含むという点で、二文連置に近い
- 他構文についても構文のネットワークのあり方に言及
- 二文連置に関しては以下の三構造があり、後節に心理述語が含まれると間接疑問構文へと近づいていく
- 背景注釈:宗助は何を考えたか(背景)、小さい位牌を箪笥の抽出の底へしまってしまった(注釈)
- 課題提示:断ったら嫌われようか(課題)、嫌われては甚だ不好い(回答や処置)
- 言い換え:どれだけ涙が出たか(不定命題)、隣室の母から夜が明けた様だよと声を掛けられるまで、少しも止まず涙が出た(事実)