高山善行(2016.12)「ケム型疑問文の特質:間接疑問文の史的研究のために」青木博史・小柳智ー・高山善行編『日本語文法史研究 3』ひつじ書房
要点
間接疑問文の成立に関して、ケム型疑問文を考察の対象とし、二文連置的な注釈構文との関連性を見る
研究史として
- 高宮(2004)の「ヤラ」「カ」間接疑問文が室町に成立した、すなわちそれ以前には存在しないとする考え方は、近藤(1987)*1の、「係り結びがあるうちは間接疑問文が成立し得ない」という記述に拠る
- 高宮(2004) hjl.hatenablog.com
しかしこれは、次の点で問題提起可能
- 古代語での非存在を証明することは困難で、先行研究での調査範囲、調査方法が明らかでない
- 中世以前であっても、係り結びが働きにくい環境では、間接疑問文が存在しうるのではないか
問題提起
- 上代・中古の疑問文のうち、以下5例が間接疑問文の定義に当てはまる
- A型(ヤ・カがない疑問詞疑問)
- あけて見るに、悲しきことものに似ず、よよとぞ泣きける。さて返しはいかがしたりけむ知らず(大和)
- 車に着たりける衣ぬぎて、つつみに文など書き具してやりける。さてなむかへりける。のちにはいかがなりにけむ、知らず。(大和)
- 王の御歌はいかがありけむ、忘れにけり(大和)
- B型(ヤが生起した疑問節が並列する選択疑問)
- 心にもかなしとや思ひけむ、いかが思ひけむ、しらずかし。(伊勢)
- 君や来しわれやゆきけむおもほえず夢かうつつか寝てかさめてか(伊勢)
- A型(ヤ・カがない疑問詞疑問)
- 疑問詞が全て「いかが」で、「か」による係り結びが回避されている
- 全て「ケム」が生起しているので、ケム型疑問文を見ていく
ケム型疑問文
- ほぼ地の文で用いられ、次の特徴を持つ
- 語り手の疑念・推測を表し、事情説明の表現となる
- 挿入句での使用がきわめて多い
- ム 0.9% ラム2.7% に対して、ケム65.7%
- 家に入りたまひぬるを、いかでか聞きけむ、つかはしし男ども参りて申すやう(竹取)
- 二文連置的な注釈のあり方を一般化すると、いかがしけむ(判断句・注釈句)、女をえてけり(事実句・被注釈句)となり、以下の2タイプに分けられる
- カ・ヤが生起するタイプ(Ⅰ型):いつか聞きけむ、「…」とののしりけり。(竹取)
- しないタイプ(Ⅱ型):いかがしけむ、疾き風吹きて、世界暗がりて、船を吹きもて歩く。(竹取)
注釈句と間接疑問文(と見られる例)の関連性
Ⅰ・Ⅱ・Aの共通点と差異
- ⅡとAは積極的な係り結びでない点で共通する
- 疑問節は、Ⅰ・Ⅱでは文相当とみなせるが、A型では句相当に格下げされる
B型については、並列されることで(埋め込み的に)疑問節が句相当になるのではないか、との見通し