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言語学(主に日本語文法史)の論文を読みます

近藤泰弘(2007.11)平安時代語の接続助詞「て」の機能

近藤泰弘(2007.11)「平安時代語の接続助詞「て」の機能」『国学院雑誌』108-11

要点

中古の「て」は、従属度の高さによって2種に分けられることを主張

中古語の接続助詞の従属度

近藤(2000)*1

  • 高い順に、
    • A類:て・つつ・ながら・で(否定)・連用形
      • TAMを含まない
      • わりなきわざかな、と言ひあはせつつ嘆く。(源氏・桐壺)
    • B類:とも・ば(仮定)・ば(確定)・ども・ど・ものの・ものから・ものゆゑ(に)
      • む・らむなどを含まない
      • はかばかしき後見しなけれ、事ある時は、なほ拠り所なく心細げなり(源氏・桐壺)
    • C類:を・に・が
      • 全て含む
      • 御心を乱りし罪だにいみじかりけむ、今はとて、さばかりのたまひ(源氏・総角)

「て」の問題

  • ての統語機能には*2幅がある
    • 従属度の低いもの:てみる・てはべり
    • 従属度の高いもの:月日経て、若宮参りたまひぬ(源氏・桐壺)
  • *3のテの分類
    • A類・テ1:首をかしげて走る(付帯状況)
    • B類・テ2:戸をばたんとしめて出て行った。(継起・並列)
    • B類・テ3 :風邪をひいて休んだ。(原因・理由)
    • C類・テ4:A社はたぶん今秋新機種を発表する予定でありまして、(提題や陳述副詞を含む節のテ)
      • テ1は付加構造、2,3,4は等位構造として二分することができる*4
      • 節連鎖の観点からも見ておいた方がよい

「て」の分類

  • 南に従えば、以下の3点に注目すべき
    • 1 「て」節の内部の述部自体
    • 2 それに対する補語や副詞句の連用部分
    • 3 「て」節を承けて次につなげるとりたて助詞
      • ここでは副助詞の連接について考える
  • 副助詞の分類
    • 第1種(格助詞に前接・形容詞連用形に後接しない・副助詞に前接):ばかり・まで
    • 第2種(格助詞に後接・形容詞連用形に後接・副助詞に後接):のみ・だに・さへ

助詞と「て」

  • 第1種はて節に接続しない
    • 「てばかり」なし
    • 「てまで」は存疑
  • 第2種は接続する(てのみ、てだに、てさへ、あり)
  • 係助詞ももちろんする(てぞ、てなむ、てこそ、てや、てか)
  • もう少し詳しく見ると、
    • 「てのみ」の場合、継起的な用法はない(連用修飾的な意味合いが強い)
      • かくてのみやは、あたらしき年さへ嘆き過ぐざむ(源氏・総角)
      • おぽつかなくてのみ年月の過ぐるなむあはれなりける(源氏・若菜下)
    • 一方、係助詞の場合は継起的な接続が可能
  • この関係性は、現代語のA/B・Cの関係に相当

「て」と統語環境

  • まことに明け方になりてぞ、宮帰りたまふ(源氏・梅枝)
    • B類の「て」であるので、評価副詞が節内に入ることができる
  • 「とて」もここまでに示した相互承接と一致(副助詞の後接がない)
    • あやしきは水無瀬川にを、とて、また端に書くぞ(源氏・常夏)
    • うち休みて対面せむとてなむしばし立ちとまりたまへ(源氏・夕顔)

まとめ

  • A類て節 副助詞が後接 統語環境として、評価副詞が節内に入らない、など
  • B類て節 副助詞が後接しない 統語環境として、評価副詞が節内に入る、など

*1:『日本語記述文法の理論』ひつじ書房

*2:「「動詞未然形+ば」の仮定条件や、「動詞已然形+ば」の確定条件、「連体形+が」のかなり独立した接続表現などが、それぞれに限定された幅で存在していることと比べると」(p.175)

*3:南不二男(1993)『現代日本語文法の輪郭』大修館書店

*4:内丸裕佳子(2006)「動詞のテ形を伴う節の統語構造について:付加構造と等位構造との対立を中心に」『日本語の研究』2-1