ronbun yomu

言語学(主に日本語文法史)の論文を読みます

永澤済(2016.9)判決における漢語動詞の特殊用法:「XとYとを離婚する」をめぐって

永澤済(2016.9)「判決における漢語動詞の特殊用法:「XとYとを離婚する」をめぐって」『言語文化論集(名古屋大学大学院国際言語文化研究科)』38-1

doi.org

要点

  • 民事判決に見られる「離婚する」の特殊な格支配について
    • 原告被告とを離婚する
    • XとYとを離婚する
  • どう特殊なのか(なぜ通常は成立しないか)
  • 逆に、なぜ成立するか

どう特殊か

  • ①漢語動詞の他動詞用法について、
    • 変化主体が有情物に限定されない変化を表す場合、その変化主体を目的語にとる他動詞が可能(永澤2007)*1
    • 以下のような動詞は自動詞しかない
      • 意志的行為:「移住する」「行動する」
      • 心的活動:「安心する」「感激する」
      • 生死など:「死亡する」
    • 「離婚する」も常に人間が変化主体なので、通常は他動詞用法が成立しない
  • ②変化主体の意思が関与する/動作主が完全にはコントロールできない場合には他動詞が用いられない
    • 舞台に子どもを{*立てる/立たせる}
    • XとYを{*離婚する/離婚させる}

なぜ成立するのか

  • 判決の特殊性による(3.3)
    • 裁判所が一方的に事態の成立をコントロールできるので、上②の条件を満たす
  • 「離婚」のあり方による
    • 一方的に離婚できることを、イスラムの事例として「妻離婚する」(4)
    • 日本も近代まで男子専権離婚主義(5)
      • 妻を離縁する・妻を去る・妻を棄捐する、など
    • これが、現代にそうでなくなることで、一般的には「XがYと離婚する」となる

気になること

  • 離す・離れるの格の影響もあるか?離縁とは関係ない語でも次のような例がある
    • 村方を離散して道路に餓死するより外なき仕義に立至りしよし(冠松真土夜暴動)
    • あと、結婚するとの体系化もあるか
  • 同一判例中に離婚・離縁が現れるやつ*2
    • 1 原告と被告とを離婚する。
    • 2 原告とA(平成7年7月31日生)とを離縁する。

*1:「漢語動詞の自他体系の近代から現代への変化」『日本語の研究』3-4

*2:http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/980/006980_hanrei.pdf