辛島美絵(1989.6)国語資料としての仮名文書:鎌倉時代の二段活用の一段化例、ナ変の四段化例等をめぐって
辛島美絵(1989.6)「国語資料としての仮名文書:鎌倉時代の二段活用の一段化例、ナ変の四段化例等をめぐって」『奥村三雄教授退官記念 国語学論叢』桜楓社、同(2003)『仮名文書の国語学的研究』清文堂所収を参照
引き続き、ナ変動詞の問題を取り上げる。
要点
- 仮名文書に見られる動詞活用の問題について
二段活用の一段化
- 日蓮書状の例(人の科をあてるにはあらす、など)は確例と見なしがたいが、
- 仮名文書に例がある
- イカナルナカチカエル(違ふ)トマウ寸トモ
- カエル(変ふ)ヘカラス候
- 定ゑんよつりあたへる(与ふる)田畠
- これらの仮名文書は地方の武士や地主といった非上流層の手によるもので、文語規範から遠いところで一段化が起こっていたことを示唆
ナ変の四段活用例
- 日蓮書状に真蹟の確例がある
- はちををもへは命をしぬ習なり。
- 心なしとをもう人、一人もなけれはしぬまて各々御はちなり
- 他、日興写本、真蹟でないものにも例があり、逆にナ変は全て後世の写本・刊本の例
- さらに、鎌倉遺文の仮名文書では、京都より西の地域にしかナ変の例がないので、日蓮の例も「東国方言的なものが反映したもの」
- 山内(2001)説*1と併せて考えると、「死ぬ」が四段化したというより、死ぬのナ変化の影響を受けなかった東国の四段形がそのまま文書に反映されたもの、見るのが妥当か
ア・ハ・ワ行下二段活用とヤ行下二段活用
- ヤ行化:替ゆ、用ゆ、添ゆ、違ゆ、教ゆなど
- ア・ハ・ワ行化:絶う、栄う、覚う、見うなど
- ヤ行化には確例が少なく書き手に偏りがないが、ア・ハ・ワ行化は日蓮書状に集中して見られる