岩田美穂(2006.12)並列形式「ナリ」の変遷
岩田美穂(2006.12)「並列形式「ナリ」の変遷」『待兼山論叢』40
要点
- 鈴木(1993)の修正
ナリの並列とこれまでの問題点
- 基本的な機能:ある事態の要素を例示的に列挙していくこと
- 選択的不定性の含意:それらの要素から想定される背後の大 きな事態に含まれる要素のうち、少なくとも一つが成立する
- 江戸期のナリは3タイプに分けられる
- 「~だし~だし」Ⅰ ア、いや〳〵其様に隠し包ましやる事はない。家主なり借主なり裏と表の事なれば内輪同前心置しやる事はいらぬ。(身代山吹色)
- 「~も~も」Ⅱ 御子息力弥殿に。娘小浪を云号致したからは。お前也私也。あいやけ同士御遠慮に及ぬ事。(仮名手本忠臣蔵)
- 不確定の出来事 Ⅲ 其内にはどう成かう成訳が立ませふ(韓人漢文手管始)
- Ⅲ成立に関して、此島のナリトモの「ナリ」脱落説、鈴木の「ドウナリト」近接説は採り難い
- ナリトモは江戸期に既に主節動詞句内の要素を焦点化できたが、ナリにはその例がない
- ナリトモは項数の制約がないが、ナリは2項以上が必須
- 「ナト」の縮約形が既にある
- 以上より、Ⅲの派生は内的要因で考える必要あり
統語変化として
- Ⅰ~Ⅲの構造を見ると、
- Ⅰ [[Xハ[AナリBナリ] ][S]]:ナリは主題Xに対して共通する複数の要素A,Bを提示する
- Ⅱ [[AナリBナリ]X]:ナリは述語Xに対して共通する複数の要素A,Bを提示する
- Ⅲ [[ [AナリBナリ] X]ガY]もしくは[Yガ[[AナリBナリ]X]]
- 修飾句になる点が異なる
- なお、明治期には名詞句相当になる例など、統語的に拡張