高山善行(2005.10)助動詞「む」の連体用法について
高山善行(2005.10)「助動詞「む」の連体用法について」『日本語の研究』1-4
要点
- 「む」の連体用法は「非現実性の標示」の機能を持つ
- 特に、モダリティ史の観点から見る
問題点と研究方法
- ムの連体用法は、仮定・婉曲とされるが、直感的理解に留まっている
- いみじからむ心地もせず, 悲しくのみある。(竹取)
- モダリティ形式の連体節中の生起の可否に、現代語と古代語では差がある。これはなぜ衰退したか?
- ?起こるだろう事件 / 明けむ明日
- *面白いそうな映画 / 男もすなる日記
- *潰れるにちがいない大学
- 言ひけむ浦波
- この問題の解決のため、さしあたりムを扱う
- 単なる用例の帰納からでは連体用法のムの性質を捉えられない
- 以下のミニマルペアを見ることで、ムの「非使用例」にも着目する
- Aタイプ・活用語+人:心ばへ知れる人,いときよげなる人
- Bタイプ・活用語+む+人:いはむ人、心やすからむ人
用例観察
- 名詞句と対応する述語の性質, 時間表現・場所表現との共起, 主名詞「人」の数量 について見ていく
- 名詞句と対応する述語の性質
- 動詞述語・形容詞述語はA・Bともに生起するが、存在詞はBには生起しない
- さかしらがる人のありて, ものいひつく人あり
- モダリティ形式はA・Bともに生起するが、TA形式はBには生起しない
- わが頼もしき人, 陸奥へ出で立ちぬ
- 動詞述語・形容詞述語はA・Bともに生起するが、存在詞はBには生起しない
- 時間表現・場所表現との共起
- Bタイプは時間表現と共起する例が稀で、しかも不特定の時を表す例に限られる
- 暁にかへらん人は, 装束などいみじううるはしう,
- 場所表現についても同様で、Bタイプでは一般論として不特定の場所を述べる例しか見られない
- 家に入りゐたらん人をば, 知らせでもおはせかし。
- Bタイプは時間表現と共起する例が稀で、しかも不特定の時を表す例に限られる
- Bタイプには「人」の数量を表す例が極めて少ない
- Bタイプは複数人を表すことがない(*若からん人たち)
- 「枚挙」を表す畳語形の「人々」の例が稀
- 多い少ないを表す例も少ない
- 数量詞遊離もBには見られない(若き人二三人あるは…)
現象解釈
- ムの連体用法を「非現実標示」の機能として解釈
- TA形式不可、時間・場所表現不可:時空の座標軸上に位置付けられない
- 現実の存在、動き、数量についても描写できない
- 加えて、ダイクシス(これ食はぬ人)、共同動作(もろともにゐたる人)、様態描写も不可