小林正行(2014.3)狂言台本における例示の副助詞デモ
小林正行(2014.3)「狂言台本における例示の副助詞デモ」小林賢次・小林千草編『日本語史の新視点と現代日本語』勉誠出版
要点
問題
- 選択的例示、確定回避、暫定抽出などとされる例示のデモ(並列例示の「例示」ではない)を扱う
- お茶でも飲むか(*お茶であっても飲むか)
- デアッテモとの置換不可、確定的な文末とは共起しない、複数の候補を列挙しない
- 中世・近世語においては、
- セメテ・タトエとの呼応に限られ、純粋な例示の例は近世に現れることの指摘がある
- が、使用実態、逆接条件からの派生過程については明らかになっていない
近世の例示デモ
- 狂言古本には見られない
- 鷺流保教本にまとまって用例が見られ、諸流派に多くみられることから、近世に新たに口頭語を取り入れたものとみられる
- 使用状況としては、
- 上接語は名詞に偏る(現代語と同様)
- 共起する九松表現は疑問や勧誘などの非確定性の表現
- ガ格相当のデモは疑問・疑問推量に多用
- ヲ格相当のデモは勧誘と共起しやすく、中心的な用法
- 勧誘表現と共起するもの
- 先くりへとをらせられてお茶でもまいれ(和泉家古本)
- 飴デモ舐ラセマセイヤイ(鷺流保教本)
- 意志表現と共起するもの:鹿申鳥類でも。いてあそばふと存ずる(続狂言記)
- 仮定条件表現と共起するもの:其内駒でも出くれば頼た人のためでおりやる(狂言記拾遺)
- 疑問表現と共起するもの:ナゼニ先約デモアツタカ身ハ覚ヌガ(保教本)
- 虎寛本では固定的で、バシと意味領域が重複する。目下の相手にはデモ、目上の相手にはバシが用いられる
- 夫には子細でも有るか(しびり)/夫には又子細ばし御ざるか(おこさこ)
- 虎寛本では固定的で、バシと意味領域が重複する。目下の相手にはデモ、目上の相手にはバシが用いられる
- 疑問推量表現と共起するもの:イヤ自然御客デモアラウカト先ツウカヽヒテ御座ル
逆接条件のデモと例示のデモ
- 例示のデモが多用されても衰退しない
- 例示のデモの成立についての緒論
- 例示のデモの成立には、セメテ~の意のデモと、タトエ~の意のデモの両方が関わると考える
- セメテ~ダケデモについては、
- 路地でお茶なりと申さう物を、おちやでも申さいで、おのこりおほい(虎明本)
- お茶が「最低条件」だが、それ以上にお菓子、食事など、比較的簡単に用意できるものの例示でもある
- 「取り上げる要素が話し手の希望の最低限度であることを示すが、可能ならば取り上げた要素以上のことも実現したいという含意も表す」
- 路地でお茶なりと申さう物を、おちやでも申さいで、おのこりおほい(虎明本)
- タトエ~デアッテモ