吉田永弘(2016.3)「副詞「たとひ」の構文」『国学院大学大学院紀要 文学研究科』47
要点
- 副詞たとひ(たとへ)について、以下の点を示す
- 位相の偏りが中世後期にはなくなる
- 意味レベルでは逆接仮定で変わらないが、形式レベルでは主にトモと呼応しつつ、様々な逆接仮定の意を表す形式が用いられる
- 一方、トモ・テモの交替が起こってもタトヒーテモへと交替せず、タトヒ―トモが使われやすい
前提
- 語形は中世頃にタトヒ→タトヘだが、タトヒに一括しておく
- タトヒはもともと漢文訓読語由来で、既に以下のことが明らかになっている
- ①「仮令」「縦」「設」「若使」などの訓として「たとひ」を当てる
- ②四段活用の動詞「たとふ」に由来すると考えられる
- ③逆接仮定条件節のほかに順接仮定条件節で用いた例がある
- ④「例えば」の意を表す例がある
- ⑤院政時代の頃から「たとひ」と「もし」で逆接と順接を分担するようになる
- ただし順接・逆接→逆接、という制約の変化は訓読法の変化であって日本語の構文の変化ではない
タトヒの使用状況
14Cまで
- 文体的な偏りあり(今昔においても)、和文においても漢文訓読を意識した使い方がされている
- 14Cまでの照応形式はほぼ逆接で、順接の場合は漢文訓読文に準ずる
- トモが圧倒的に多い
- ドモの例があり、これは確定条件ではなく、一般条件を想定し、逆接仮定を表すもの
- むにても、むにつけても、などのム+助詞も、仮定事態を表すムで逆接仮定節相当
- 他、トテモなど、タトヒ―逆接仮定という意味レベルでの構文があり、形式レベルではタトヒ―トモを典型とする逆接仮定の諸形式と照応
14C後半以降
- やはり、逆接仮定の意に関わる形式と呼応する
- 放任用法の命令形、テモ、デモ、已+バトテ、ウト、ウガ、トテ、テカラ、など
- ドモ、ム+助詞は15-16Cには衰退
タトヒ構文
- 以上の消長をまとめると、
- この史的展開を見ることで、逆接仮定に関わる形式の消長を見ることができる
- トモは前期後期で変わりがないように見えるが、後期においては「専用」ではなくなる点に注目する
- 一般的なトモ・テモの交替は17C前期~中期に起こるが、タトヒ―テモの例はその割には少ない
- タトヒの場合はトモと呼応するという意識があり、それが近代まで続いたものと考えられる
雑記
- 今の泰葉が昔よりも歌うまくてビビる