ronbun yomu

言語学(主に日本語文法史)の論文を読みます

伊藤雅光(1982.2)『古今集遠鏡』・『古今和歌集鄙言』間の剽窃問題について

伊藤雅光(1982.2)「『古今集遠鏡』・『古今和歌集鄙言』間の剽窃問題について」『国語研究(国学院)』45

要点

  • 『鄙言』による『遠鏡』の剽窃について考える
  • 遠鏡は寛政5には成立しており、刊行作業は千秋側の事情により、やや遅れる
  • 寛政8の書簡から、宣長が鄙言を遠鏡の剽窃と断定していること、またそれ以前に鄙言を見ていないことが分かり、
  • 断定した頃を境に、刊行作業は異常な速度で進行する
  • 一方の鄙言は、寛政8・正月をあまり遡らない頃の成立で、遠鏡よりは遅い
  • 「鄙言」のシリーズは古今集古今集両序の順に刊行されたが、なぜ両方一緒に訳して刊行しなかったのか?
  • 鄙言作者の尾崎雅嘉は、『群書一覧』において、鄙言を余材抄・顕註密勘の注に拠ったとするが、それらと一致せず、むしろ遠鏡と一致する例が少なくない
    • 「思ふどちひとり〳〵がこひしなば」(654)を、遠鏡は「余材、ひとり〳〵を我事にとれるはわろし」として「カウ思ヒアフタドウシノ内ニ」とし、鄙言が「此やうにおもひあふたとしのうちに」とするなど
  • 遠鏡の稿本は少なくとも5回、本居家から出ており、7人が長い間手元に置いていたことが分かる
  • 以上より、宣長が鄙言を剽窃した可能性はなく、尾崎が遠鏡を剽窃した可能性は高い

雑記

  • オンライン研究会、かなり便利だし発表会として普通に成立していた
  • ので、これが一般的になると科研が余りまくる可能性が高い