ronbun yomu

言語学(主に日本語文法史)の論文を読みます

三原千世(1983.12)「ことならば」を条件とする文の意味について

三原千世(1983.12)「「ことならば」を条件とする文の意味について」『女子大国文』94

要点

  • 上代では「こと放けば」「こと降らば」のように動詞を伴う条件句が、中古になって「ことならば」になったと考えられる
  • 「ことならば」はすべて1 「現実の事態」を条件としてよりよい状態を望むもので、意味を以下の4つに分けることができる
    • A どうせ~するのならば、~の方がましだ(相手への咎めを伴う):こと放けば沖ゆ放けなむ(万1402)→ナムで結ぶ
    • B どうせ同じことなら、いっそ(何の期待も持たずに済む)~してくれた方がよい:ことならば言の葉さへも消えななむ(古今854)→ナム・マシ・ムで結ぶ
    • C どうせ~ならば、いっそ(まだ希望をもたせてくれる)~であってほしい:ことならばはれずもあらなむ(大和28)→ナムで結ぶ
    • D どうせ~ならば、もっと~してほしい(さらによりよい状態であってほしい):ことならば君とまるべく匂はなむ(古今395)→ナム・マシで結ぶ
  • 似た表現に「同じくは」があるが、これは1 「現実の事態」以外にも、2 「予想される事態」を条件とする場合がある
    • 1 現実の事態:B 同じくは、なり果てなむ(夕霧)/ D 同じくは、けぢかき程のけはひ、立ちぎきさせよ(末摘花)
    • 2 予想される事態:C' 同じくはわが心ゆるしてを知らせ奉らむ(行幸)/D' 同じくは、…人めかしくて、まうでさせむ(若菜下)
  • 「ことならば」は歌語、「同じくは」はもともと散文であったが、後撰集以降には和歌にも用いられる

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雑記

  • できの良い卒論、できの悪い研究者の論文(曖昧性)より質いい問題